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【統計一口メモ 第25話】さらなる95%信頼区間

名古屋市立大学大学院医学研究科 非常勤講師 薬学博士 松本一彦

95%信頼区間については、第6 話に母平均を推定するための手法としてとりあげました。
でも、95%信頼区間はそれだけではなく、中央値の信頼区間、死亡率のような割合に関する信頼区間もあります。

§1.中央値の信頼区間
例題:10 名の尿失禁検査ICIQ データから中央値の信頼区間を知りたい。

佐久間昭「医学統計Q&A」 金原出版(株)1)のデータ引用

 ...

正規近似に基づく方法: 正規分布の上側確率が α/2 となるパーセント点を Zα/2 として,測定値のy(r)番目を下側、y(n-r+1)を上側信頼限界値とする方法です。

  • 手順1.中央値をエクセル関数MEDIAN で求めます。 中央値=9
  • 手順2.中央値の順位(rM)を(n-1)/2 で求めます。
    M=(n+1)/2=(10+1)/2=5.5
  • 手順3.次の式から小さい順位 r を求めます。
    r=rM-1/2 x Zα/2 x n  r=5.5-(1/2)x1.96x10=2.3
  • 手順4.r=2.3 を切り捨てて整数にします。 2.3≠2
  • 手順5.y(r)=y(2)の観測値(ICIQ) 4 が下側の信頼区間になります。
  • 手順6.次の式から上側の信頼区間を求めます。
    y(n-r+1)=y(10-2+1)=y(9)の値 11が上側の信頼区間になります。
 ...

95%信頼区間=4~11

※ボクのつぶやき:こんなに信頼区間が広いのは、たまたま中央値9の同値が3つもあるせいかも。
§2.割合の信頼区間 <一変量の解析>
例題:50例にプラセボを用いて、16例に鎮痛効果を認めた。
プラセボ効果pは16/50=0.320, 32%である。95%信頼区間を求めたい。

佐久間昭:医学統計Q&A 金原出版(株)1)

連続修正なしの正規近似法で求めます。

母出現率πは p±Zα/2 √p(1-p)/n として標本出現率pで推定します。

  • 手順1.標本出現率pは例題から 16/50=0.32となります。
  • 手順2.標準正規分布のZα/2 は Z(0.025)=片側2.5%点でエクセル関数
    NORMSINV(0.975)=1.9599≠1.96を用います。
  • 手順3.上記の母出現率π式から95%信頼区間を計算します。
    0.32-1.96x√0.32(1-0.32)/50<π<0.32+1.96x√0.32(1-0.32)/50
    0.191~0.449 → 0.19~0.45

この方法はWald法と呼ばれます。ただ、Wald法は下限がマイナスになることがあるため、不等号を等号に変えて、2乗するScore法が提案されています。JMPはこのScore法を用いていますが、結果は0.21~0.46とほぼ同じ値を示します。

§3.割合の差の信頼区間 <二変量解析>
例題:腰痛患者25名で旧処方と新処方による鎮痛効果を検討した。
結果は下表に示す通りである。割合の差の信頼区間を知りたい。

芳賀敏郎「医薬品開発のための統計解析」サイエンティスト社第3部2)

 ...
  • 手順1.各群の"有効出現率"pを求めます。
    p1=4/15=0.267
    p2=7/10=0.700
  • 手順2.割合の差 d=|p1-p2|を求めます。
    d=|0.267-0.700|=0.433
  • 手順3.「割合の差」の標準誤差を求めます。
    T1, T2=各群の合計(15、10)
    Se(d)=p1(1-p1)/T1+p2(1-p2)/T2
    Se(d)=0.267x(1-0.267)/15+0.7x(1-0.7)/10=0.184
    割合の差の標準誤差=0.184
  • 手順4.Wald法で95%信頼区間を求めます。
    Zα/2 =1.96 d=0.443
    d-Zα/2Se(d)<d<d+Zα/2Se(d)
    0.443-1.96 x 0.184 ~ 0.443+1.96 x 0.184
    95%信頼期区間 = 0.072 ~ 0.795
    有効無効計(T) 旧処方41115 新処方7310計111425効果
  • 手順5.Wald改良法で95%信頼区間を求めます。
    Wald法は左右非対称のため、手順4で求めた信頼区間は正確性に欠けるとして改良された手法は、個々の度数に1を加えてからWald法を適用します。この結果はJMPの結果と一致します。
 ...

95%信頼区間 = 0029 ~ 0.716

※ボクのつぶやき:Wald 改良法は理論的でないような気がするけど、JMP はこの方法を採用しているようだ。Wald 法の上側と改良法の上側はほぼ一致している。1を超えていないからいずれにしても差は有意であることに変わりないけど。
§4.オッズ比の95%信頼区間
例題:腰痛患者25 名で旧処方と新処方による鎮痛効果を検討した。
結果は下表に示す通りである。オッズ比の信頼区間を知りたい。

芳賀敏郎「医薬品開発のための統計解析」サイエンティスト社第3 部2)

 ...
  • 手順1.旧処方、新処方ごとにオッズを求めます。
    旧処方=4/11=0.3636
    新処方=7/3 =2.3333
  • 手順2.それぞれのオッズを対数変換して対数オッズ(logit)を求めます。
    旧処方=LN(0.3636)=-1.0117
    新処方=LN(2.3333)=0.8473
  • 手順3.対数オッズの差をとって、対数オッズ比を求めます。
    対数オッズ比(ln(OR)=0.8473-(-1.0117)=1.8590
  • 手順4.対数オッズの差の標準誤差を求めます。
    V[ln(OR)」=1/f11+1/f12+1/f21+1/f22=1/4+1/11+1/7+1/3=0.8171
    fij=観測値
    Se(d)=V[ln(OR)]=0.9039
  • 手順5.対数オッズ比の信頼区間を求めます。
    ln(OR)±Zα/2 x Se(d) = 1.859±1.96 x 0.9039 = 0.087~3.631
  • 手順6.EXP 関数で対数を元の値に戻します。
    EXP(0.087)=1.091 EXP(3.631)=37.74

オッズ比の95%信頼区間は1.091~37.74

1を含んでいないので、旧処方と新処方には有意な差がみられる。

※ボクのつぶやき:オッズ比を求めた表にはp値と信頼区間を併記していることが多いけど、外国誌の中には、「p値はいらない信頼区間だけでOK」というのもあるようだ(本HP第15話)。
  • 1)佐久間昭 「医学統計Q&A」 金原出版(株)1994年
  • 2)芳賀敏郎 「医薬品開発のための統計解析」第3部 サイエンティスト社 2016年