2010年米国トキシコロジー学会教育賞を受賞して

佐藤哲男

第49回米国トキシコロジー学会(SOT)年会が本年3月8日から14日までSalt Lake City 市内の国際会議場で開催されました。毎年開催される SOT 年会は、その規模や講演内容から考えて、米国のみならず国際学会として最も充実していると思います。私は1974年に SOT に入会しました。当時の会員数は恐らく1000人くらいだったですが、現在は6600人となり毎年の年会には会員数を上回る7000人以上が参加しています。
今年の受賞式は年会前日の3月7日夕方に会議場の最も広いボールルームで、約6500人が参加して開催されました。Award Committee の Dr. Matthew Bogdanffy が私の紹介と今回の受賞理由を述べた後、顕彰楯が贈られました。本賞はトキシコロジー研究者の教育、育成に貢献した者を顕彰する目的で1965年に制定されたものです。毎年かなりの候補者が nominate されますが、今年は13人の候補者があり、いずれも高名な大学教授だったそうです。
私の受賞理由は、日本国内における30年以上にわたる大学での学生の教育や、日本トキシコロジー学会(JST)での活躍、資格認定制度の提案者の一人としての業績などが挙げられました。さらに、1995年から8年間 IUTOX 副会長や各種委員会委員長などを務めたことや、ASIATOX の初代事務局長、理事、アドバイザーとしての貢献が評価されたと思います。今年の各種受賞者の紹介がSOT のホームページに掲載されていますので、お暇なときにご覧下さい(http://www.toxicology.org/AI/AF/winners.asp)。
SOT は IUTOX の運営にかなりの力を注いでいます。中でも「若手研究者の育成」は IUTOX の最重要課題です。特に開発途上国における若手研究者の訓練や教育には財政面も含めて大きな支援をしています。我が国では、谷学が強力な「若手研究者集団」として活躍されていることは、誠に頼もしい限りです。
今回の受賞には国内の多くの方々からご支援を頂き心から感謝しています。
加えて、米国内の多くの知人、友人のサポートも忘れることが出来ません。1970年代にシカゴ大学に勤務していた頃に知り合った当時の若手研究者が、いまでは SOT の重鎮として世界のトキシコロジーを支えています。また、1995年から IUTOX を通して知り合った世界中の友人たちも、私にとっては国際交流のネットワークとして欠く事の出来ない存在です。
米国の大学には定年制がありませんので、私よりも年上で現在も現役で活躍している人が多くいます。ノースウエスタン大学の楢橋俊夫先生は、東大の農学部を卒業後渡米し86歳になりますが、今年もポスター会場で発表者と議論しているのを見て心を打たれました。また、谷学の皆さんが翻訳された Casaretto& Doull の本の編者の John Doull も80歳半ばですが、今年も一年ぶりに元気で会う事が出来ました。日本では定年を過ぎると、それまでのストレスから解放されて途端に老ける人が多いです。定年を機に桜が散る様に第一線から退くのも一つの人生観ですが、私は「うば桜?」と言われようとも、今後とも谷学の皆さんと接して若いエネルギーを少しでも吸収させて頂きたいと考えています。
最近読んだ貝原益軒の「養生訓」の中に、「流木は腐らない」とあります。つまり、常に心身ともに活動していると腐るのを止めることが出来ます。
私がトキシコロジーに関係したのは、JST の前身の「毒作用研究会」からですから、偶然にも SOT に入会した36年前になります。今後はこれまでご支援頂いた多くの皆様に何らかの恩返しが出来れば幸いと考えております。これからの谷学にお願いしたい事は、海外交流を活発にして頂きたいことです。事実、アジアの開発途上国の研究者は日本の若手研究者との交流を切望しています。
谷学が今後とも我が国のトキシコロジーを支える leading group として、益々発展されることを祈念致します。
なお、2011年は SOT 創立50周年の記念すべき年に当たり、3月6日から10日まで Washington D.C.の国際会議場で種々の特別企画が提案されています。谷学の皆様は是非今から早速社内で SOT への出席の意志を表明して下さい。