谷学発!常識と非常識 第29話 「がんの10年生存率」

高精度放射線治療装置「ノバリスTx」を導入している
KIN放射線治療・健診クリニック=金武町金武
( http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/87640より引用)
昔は「がんは治らない」というのが常識でした。がんが発見されても、余命3 ヶ月とか、1 年以内のことが多く、患者がそれを知ってしまうと生きる気力を失うため、患者本人にはがんが告知されないのが常識でした。黒澤明監督の名作映画「生きる」では、小さな公園を懸命に完成させた直後にがんで亡くなった課長のお通夜の席で、役所の同僚たちが、死んだ課長が自分のがんを知っていたかどうかで議論を始め、ストーリーはこの議論に沿って展開します。
このようなストーリーは、がんが本人には告知されなかった時代でないとできないものです。今日では本人へのがんの告知が普通になりましたが、これは「がんは治る」が新しい常識になったからです。しかし、この新しい常識に反するようながんがまだあります。国立がん研究センターは2018 年2 月、「がん患者の10 年生存率」を発表しました(※1)。従来、がんの生存率には「5年生存率」が使われてきましたが、データが蓄積されて、3年前から「10 年生存率」も発表されるようになりました。右の表から、がん全体の10 年生存率は55.5%で、がんと診断されても、患者の半数以上が10年以上生きる時代になりました。このデータは2000~2004 年にがんと診断された患者のデータですから、これからがんと診断される患者の10 年生存率はもっと良くなることは確実です。
しかし、この表をよく見ると、がんには「治りやすいがん」、「中等度に治りやすいがん」、「治りにくいがん」の3 種類があることが分かります。最も生存率の高いがんは前立腺がんで、92.4%(5 年生存率なら100%)です。甲状腺がん、乳がん、子宮体がんがこれに次ぎ、これらは10 年生存率約80%以上の「治りやすいがん」です。「中等度に治りやすいがん」には、子宮頸がん、大腸がん、胃がん、膀胱がん、腎臓がん、喉頭がんがあり、約60%以上の生存率です。ところが、肺がんと食道がんの10 年生存率は約30%以下、胆嚢・胆道がんと肝臓がんが約15%以下、そして膵臓がんは5%と、驚くばかりの低さです。
なお、今回の発表資料には腫瘍類が含まれていませんが、国立がん研究センターが発表している別の資料(※2)に2010~2014 年の5 年生存率が載っており、成人脳腫瘍(46.3%)、小児脳腫瘍(69.6%)、成人リンパ性白血病(87.6%)、小児リンパ腫(89.6%)などと、中等度以上の生存率です。
ではなぜ生存率が高いがんと低いがんがあるのでしょうか。第30 話では、最も治りやすい前立腺がんを例に、治りやすいがんの条件を考えてみましょう。
引用文献
1)全国がんセンター協議会: http://www.zengankyo.ncc.go.jp/etc/index.html
2)国立がん研究センター:https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2018/0220/index.html