谷学発!常識と非常識 第43話 異常気象(1)

1.「異常気象」とは

「異常気象」とは珍しい気象現象をいい、その目安は約30年に一度以下の頻度とされています。2018年の夏はそのような「異常気象」の連続でした。まず7月の上旬、梅雨前線の膠着により西日本に豪雨が続き、気象庁によれば、7月8日までの10日間の総降水量は四国地方で1800ミリ、東海地方で1200ミリ、九州北部地方で900ミリ、近畿地方で600ミリ、 中国地方で500ミリを超え、多くの地点で7月の月間降水量平年値の2~4倍となる記録的大雨となり、西日本を中心に全国123箇所の測定点で24、48、72時間降水量が観測史上最大の雨量を記録しました(※1)。その結果、中国・四国地方を中心に河川の氾濫や山林の崩壊で死者・行方不明者226人を含む甚大な被害が発生しました。記録的な早い梅雨明けの後の日本列島は気温35度以上の猛暑日が連続し、多くの地点で最高気温記録を更新し、埼玉県熊谷市で日本の最高気温の観測記録41.1度を記録しました。また、7月末に東海地方に上陸した台風12号は日本列島を東から西に横断し、8月12日から16日までの5日間に5個の台風(15~19号)が毎日1個発生しました。2018年の台風の日本(四島)上陸数は5個で平均の2倍(これは異常ではない)でしたが、うち台風20、21、24号の3つが関西に上陸したのは異例で、特に21号は25年ぶりの大型台風で、高潮で関西空港を使用不能にしたほか、関西を中心に強風による大被害をもたらしました。

さて、このような「異常気象の連続」は単に偶然の現象が連続しただけなのでしょうか、それとも何らかの原因があって、その結果として起こったのでしょうか?

2.「異常気象」の原因はジェット気流の大蛇行?

気象庁の検討会は、これらの「異常気象」の連続の原因を次のように説明しています(※2):

「今回の西日本から東海地方を中心とした記録的な大雨の要因は、 西日本付近に停滞した梅雨前線に向けて、 極めて多量の水蒸気が流れ込み続けたことであり、また、記録的な高温の要因は、 太平洋高気圧と上層のチベット高気圧がともに日本付近に張り出し続けたことです。これら一連の顕著な現象は、持続的な上層のジェット気流の大きな蛇行が繰り返されたことで引き起こされました」。

気象庁が異常気象の原因を「ジェット気流の蛇行」で説明するのは夏の異常気象だけではありません。2017-2018年の日本の冬は寒波が続き、平均気温が32年ぶりの異常低温を記録しましたが、気象庁はその原因もジェット気流の蛇行で説明しています(※3)。

異常気象の原因が夏も冬も「ジェット気流の大蛇行」ならば、次の疑問は「ジェット気流はなぜ蛇行するのか」です。これを理解するにはジェット気流について知る必要があります。

3.ジェット気流とは?

左の図(文献4より引用)は、ある春の日の北半球の主なジェット気流を示します。ジェット気流とは偏西風の一種であり、対流圏上部の高度8 ~ 13 kmを東向きに流れる高速の気流をいいます。主なものは北半球と南半球にそれぞれ2本ずつ存在します。図の青線は北極により近い「寒帯ジェット気流」、赤線は赤道により近い「亜熱帯ジェット気流で、いずれも北極の周囲を蛇行しながら反時計方向に高速で循環しています。

冬季には寒帯ジェット気流が南下して、両者が合流することもあります。ジェット気流の速さは秒速30~100メートル(時速360キロ)にも達します。旅客機が同じ距離を飛ぶのに西廻りよりも東廻りが早いのはジェット気流の影響です。

下の図(文献5より引用)は北半球の大気(対流圏)の南北方向の断面図です。ジェット気流ができる位置(北緯約60度と約30度上空、断面が同心円状の部分)を示しています。

図の左端が北極、右端が赤道で、赤道上部のキノコ型の雲は赤道付近で暖められた空気の上昇を示します。上昇した気流は北方に移動し、徐々に冷えて北緯30度付近で下降気流となり、地表を赤道方向に戻る循環を形成します(ハドレー循環、Hadley Cell)。一方北極の寒気は重いので地表を這って低緯度方向に移動し、北緯60~40度近辺で上昇気流となり、北極方向に戻る循環を形成します(極循環、Polar Cell)。これら2つの循環に挟まれた部分の大気は、時計方向に回転する循環を形成します(フェレル循環、Ferrel Cell)。ハドレー循環と極循環が閉じた大気循環であるのに対して、フェレル循環は閉じておらず、この循環を認めない専門家もいます。しかしジェット気流が通常2本できる理由を説明するためにはフェレル循環の概念が必要です。これら3つの循環の境界部分の上空(通常2箇所)に下降も南北方向への移動もしない大気の帯ができ、これがジェット気流となります。ジェット気流が東向きに高速移動するための駆動力は大気が地球とともに自転していることに起因します。低緯度にある大気は高緯度の大気に対し高速度で自転しているため、低緯度の大気が高緯度に移動しただけで東向きの力(コリオリ力)が発生します。この力の源は太陽エネルギーであり、太陽が赤道付近の大気を温めて上昇させ、北向きに移動させることで発生します。

4.ジェット気流の異常な蛇行の原因

上図を用いてジェット気流が蛇行する原因も説明できます。冬季に北極の寒気が強まれば寒気はより低緯度まで南下し、同時に「寒帯ジェット気流」の位置も南下します。また季節とは関係なく、北極の寒気がある方向に偏って張り出せばその部分だけジェット気流が南下します。この「寒帯ジェット気流の部分的な南下」は、宇宙から見下ろせば「寒帯ジェット気流の蛇行」そのものです。すなわち、ジェット気流の蛇行の原因の1つは北極海の寒気の偏在です。結論から言えば、ここ30年ほどの間に北極海では偏った温暖化が進行しており、北極海の寒気の中心は東部シベリアや北米大陸方向に移動しています。近年ジェット気流が極東や北米大陸の方向へ大きく蛇行することが多く、これが夏の記録的熱波や冬の記録的寒波の原因となっていますが、このジェット気流の蛇行の原因が北極海の温暖化による寒気の偏在にあり、したがって地球温暖化と関係している可能性が高いのです。ただし北極海の温暖化やその原因については後日改めて根拠を挙げて説明することにし、その前に、もっと身近な気象現象について、地球温暖化との関連を根拠をあげて検証し、地球温暖化に関する「常識と非常識」を整理してみたいと思います(次回に続く)。

(馬屋原 宏)

1) 気象庁:https://www.jma.go.jp/jma/press/1807/09b/20180709_sankou.pdf
2) 気象庁:http://www.jma.go.jp/jma/press/1808/10c/h30goukouon20180810.pdf
3) 気象庁:https://www.jma.go.jp/jma/press/1803/05b/h30fuyunotenkou20180305.html
4) ヤフー知恵袋:https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14188104654
5) ジェット気流:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%83%E3%83%88%E6%B0%97%E6%B5%81