谷学発!常識と非常識 第44話 異常気象(2)

米国のアル・ゴア元副大統領は映画や著作『不都合な真実』で地球温暖化をキャンペーンした功績で2007年度のノーベル平和賞を受賞しました。彼の著作(※1,2)は説得力がありますが、彼は政治家であり科学者ではないので、これらの著作はキャンペーン用資料の性格が強く、データの裏付けがない内容もあります。例えば彼は地球温暖化により降雨量の増加、ハリケーンや台風の発生数の増加や大型化が起こると警告しており、これらは多くの人々の「常識」になっています。しかし彼はその根拠を示していません。そこでそのような事実があるのか調べてみました。

1.豪雨は増えている

気象庁は日最高気温が35℃以上の日(猛暑日)の日数や1時間降水量が50 mm以上の豪雨の回数など、特定の指標を越える「極端な気象」に関するデータを公開しています(※3)。
左のグラフ(文献3より引用)は1975年から現在までの約40年間の全国1000地点のアメダス観測地点で1時間雨量が50ミリを超えた豪雨の回数を示します。赤い線が示すように豪雨の回数には増加傾向が認められます。

2.年間降雨量は増加しているか?

  豪雨の回数が増えれば年間降雨量も増加すると予想されます。左のグラフ(文献3より引用)は、1895年から2015年頃までの120年間の日本の年間平均降雨量の推移を示します。青線(5年平均値)を見ますと、年間降雨量の増加傾向は認められません。このグラフで目立つのは1960年頃から年間降雨量の変動幅が増大していることで、降雨不足の方向に向かっている可能性もあります。

杉田ら(※4)は日本各地の年間降雨量の経年変化を調査し、年間降雨日数は近年増加しているものの、0~1ミリ/日の弱雨が多く、年間降雨量はむしろ減少傾向にあると報告しています。

3.台風の発生数・上陸数は増加しているか?

上の図(文献5より引用)は、1950年以後の台風の発生数、日本への接近数、及び日本への上陸数をプロットしたものです(太線は5年平均値)。これら3つの指標のどれをみても近年の増加傾向は認められません。特に台風の発生数の5年平均値のグラフは1990年頃をピークに減少傾向にあります。2010年の発生数14個は1950年以降約70年間の最小記録でした。2018年の台風発生数26個は、直近の約20年間では多いほうですが、それでも平均値でした。

4.台風は大型化しているか?

気象庁は「中心気圧が低い台風」(統計期間:1951年~2018年)を公開しています(※3)。大型台風ほど中心気圧が低いので、日本に上陸した巨大台風をその中心気圧が低い順に1位から10位まで並べてみますと以下の順となります(第5位が6つあり、5位までで10個になる):


なお、上の表は観測方法が確立した1950年以後の約70年間のデータですが、日本に上陸した台風の中で観測史上最も強かった2個の台風のデータが参考として付けてあります。この2個を含め、上陸時930 hPa未満の超大型台風の上陸は20世紀中に4個ありましたが、1959年の伊勢湾台風を最後に、その後60年間、このような超大型台風の上陸はありません。参考の2個を除くこれら大型台風は全て20世紀後半のもので、50年間に10個、5年間に1個の割合でしたが、1993年13号を最後に、直近の25年間は1個も上陸していません。2018年21号台風は日本に上陸した台風としてはこの1993年13号台風以來25年ぶりの大型台風でしたが、最大発達時915 hPa、上陸時950 hPaで、上の表に載るほどの強さではありませんでした。

なお、台風の大型化を論じるなら、日本への接近や上陸とは関係なく、台風が最も発達した時点での中心気圧だけで比較すべきだとも考えられます。文献6に1950年以後に発生した台風を最大発達時の中心気圧が低い順にランク付けしたデータが掲載されています。10位までの超大型台風(最低気圧範囲870~885 hPa、同順位のものがあり、計13個)のうち12個までは20世紀後半のもので、約4年に1個の割合で発生していました。このペースが続けば今世紀に入ってからの18年間に超大型台風が4個以上発生していても不思議ではありませんが、実際は1個(2010年13号)だけで、このカテゴリーでも超大型台風の増加傾向は認められません。なお、この2010年13号台風は現時点では今世紀最強の台風で、フィリピンに上陸して大被害をもたらしましたが、この年の台風の発生数14は1950年以來の最少記録でした。ゴア氏は温暖化による台風の発生数の増加と大型化を予言しましたが、台風の大型化はむしろ台風の発生数の減少と関係があるかもしれません。なぜなら台風のエネルギー源は太陽熱による海水温の上昇ですから、一定期間内の台風の発生数が少ないほど台風1個当たりが蓄積するエネルギーが大きくなり、台風が巨大化する可能性があるからです。

以上、ゴア氏の予想に反し、1950年以後、年間降雨量の増加も、台風の発生数や日本への上陸数の増加も、台風の超大型化の傾向も認められていません。ただし近年、気象の変動幅が大きくなっているようで、今後の予測は困難です。地球温暖化に関する「常識」の中には根拠がないものもあり、先入観を排し常に真実かどうかを確認する必要があります(第45話に続く)。

(馬屋原 宏)

1)アル・ゴア著、枝廣淳子訳:『不都合な真実』.ランダムハウス講談社(2007)
2)アル・ゴア著、枝廣淳子訳:『不都合な真実2』.実業之日本社(2017)
3)気象庁:http://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/statistics/ranking/air_pressure.html
4)杉田卓也ら:「近年の日本の平均降水量の経年変化」.熊本高専研究紀要、4、41-48(2012)
5)Hazard Lab.:https://www.hazardlab.jp/know/topics/detail/8/4/8494.html
6)狩野川台風:https://ja.wikipedia.org/wiki/狩野川台風