谷学発!常識と非常識 第53話 地球温暖化の原因(1):太陽原因説

地球温暖化の原因に関する各種の理論を紹介しながらそれが近未来の気温の予測に有効かを3回にわけて吟味します。今回は太陽に関連する2つの理論の紹介です。

1.ミランビッチサイクル説(太陽と地球の距離の変化説)

地球温暖化や寒冷化の原因を太陽と地球の間の距離及び地軸の傾きの変化によって説明する考え方です。約100年前にセルビアの応用数学者ミランコビッチは当時の最新の天文データを用い、地球の北半球の温暖期-寒冷期の長期的サイクルを計算で示しました。太陽の日射量は下の図(文献1より引用)に示す三つの要因によって変動します。

第1の要因は太陽を公転する地球の軌道が楕円であることによる離心率(eccentricity) の変動(周期約10万年)、第2は地球の自転軸(地軸)の傾き(obliquity) の変化(周期約4.1万年)、第3は地球の自転軸の歳差運動(precession) (周期約2.3万年)の3つです。彼はこれらの3つの周期が合成された約10万年の周期で日射量が増減するため、地球が温暖期と寒冷期を繰り返すと説明しました。20世紀後半に南極の氷床をボーリングして得られた氷床コアの解析から過去数十万年の南極の気温が約10万年周期で温暖期と寒冷期を繰り返していたことがわかり、ミランコビッチ説は再評価されました。ただし、約10万年の周期が明瞭なのは直近の40万年だけで、その前の約60万年間の周期は乱れており、約100~270万年前の周期は約4.1万年に近く、地軸の傾きの影響のほうが大きいとの見解もあります(※2)。
ミランコビッチサイクル説の弱点は、太陽と地球の距離の変化が極めてゆっくりしているため、最近の100年間に1℃という短期間の温暖化の説明ができないことです。また、現在の温暖期はすでに1万年以上続いており、前回の温暖期と同じなら次の氷河期がいつ来ても不思議はないことになりますが、約40万年前の温暖期は2万年以上続いており、これと同じなら次の氷河期は1万年も先になるかもしれません。残念ながらこの説から近未来の気温を予測することはできません。

2.太陽活動の変動説

地球温暖化や寒冷化の主な原因を太陽自体の活動の変動で説明する説です。太陽の活動(エネルギー放射)は約11年周期で活発化と沈静化を繰り返します。太陽の活動期には太陽黒点が増加し、沈静期には黒点数がゼロになるまで減少します。黒点数ゼロから最大数(多いときは年間300超)に達するのに約5年、再びゼロになるのに約5年かかるので、1つのサイクルに約11年かかります。

2-1 太陽黒点の11年移動平均と世界の平均気温との関係

下の図(文献3より引用)は過去約400年間の年間太陽黒点数の推移です。太陽黒点の観測は1612年にガリレオらにより始まり、1750年以後の活動サイクルには番号が付けられています。現在(2019年)はサイクル24が終わって黒点数がゼロとなり、サイクル25が始まるところです。

温暖化の太陽活動原因説では太陽活動(黒点数)の変動が地球の気温に影響すると考えます。しかし、個々の太陽活動の上昇と下降に合わせて平均気温が上下するわけではありません。ところが数十年にわたり黒点数のピークが高かったり低かったりすると、その影響が世界の平均気温に表れてきます。上の図の太線は年間黒点数の11年移動平均(毎年の前後5年ずつ、計11年の平均)です。黒点数は11年周期で変動するので、11年移動平均を取ると周期性が消えて太線のようななめらかな曲線になります。この移動平均のグラフはまるで世界の平均気温のグラフであるかのように過去の世界の気温と相関しています。

相関は以下の点で明らかです:

  • ① 1640~1710年頃の約70年間、黒点数ゼロの状態が続き(マウンダー極小期)、世界は寒冷化した。ロンドンではテムズ川が氷結、日本では飢饉が多発した(寛永の大飢饉、1642・43年)。
  • ② 1800年代前半にもダルトン極小期があり、日本では飢饉が多発(天保の大飢饉1833~など)。
  • ③ 1900年前後に長期の黒点減少期があり、欧州やロシアで食料不足。日本でも大凶作(1902・05年)。1902年には八甲田山で雪中行軍訓練中の兵士210名中199名が凍死している。
  • ④ 1950~1980年頃及び1990年頃以後にもに太陽活動が低下している。

余談ですが、長期の黒点減少期には多くの国が関係する大戦争が起こる傾向があるようです。マウンダー極小期には欧州全土を巻き込んだ30年戦争が起こり、ダルトン極小期にはナポレオン戦争が起きています(ナポレオンのロシア遠征は大寒波のため失敗している)。また1900年前後の長期の黒点減少期には、日露戦争、第一次世界大戦、ロシア革命などが起きています。ところで、第48話で世界の平均気温の推移を紹介した際に、「平均気温は全体としては上昇しているが、1890~1915年の約25年間、1940~1975年の約35年間、及び1998~2014年の約15年間、気温の上昇がないか、むしろ下降気味だったのはなぜか?」と書きました。このことを念頭に上の移動平均のグラフを見ると、驚くべきことが分かります。1900年以後現在までに太陽活動が低下した時期が3回あります(1900年前後、1950~75年頃、及び2000年頃以後)。上記の疑問への解答がついに見つかったようです。これら3回の平均気温の停滞または下降の時期は上の移動平均のグラフの3回の落ち込みと時期的に全て一致しています。すなわち、世界の平均気温の停滞または下降の原因が太陽活動の低下であったことを示しています。

2-2 20世紀の世界温暖化の原因

上のグラフで1900年から2000年までの100年間の黒点数の移動平均の推移を見ると、一時的な変動はありますが、全体としてはこの100年間に太陽活動が活発化しています。したがって20世紀100年間の世界の平均気温の上昇は太陽活動の活発化だけで説明できます(もちろん二酸化炭素原因説の立場の人たちはこの説明を受け入れません。彼らの主張は次の第54話で紹介します)。

2-3 温暖化太陽活動原因説による近未来の気温予測

太陽活動原因説では近未来に世界の平均気温が寒冷化すると予測します。上の移動平均のグラフの右端に表れていますが、2000年頃以後、太陽活動が明白に低下しているからです。

左の図(文献5より引用)は直近の太陽黒点サイクル19から24の拡大図です。黒点数のピークはサイクル23から減少し始め、サイクル24(右端)は200年前のダルトン極小期以来の低さです(前の図参照)。2015年に『地球はもう温暖化していない』を出版した深井有氏は太陽活動の長期停滞期(小氷期)が迫っていると考え、2014年までの約20年間、世界の平均気温が上昇していないことをその根拠の一つに挙げています(※4)。
ただし、平均気温の停滞は世界温暖化が終わったことの根拠にはなりません。過去100年あまりの間に3回あった平均気温の停滞期は全て一時的で、その後温暖化が再開しているからです。気象庁によりますと、2014年から上昇に転じた世界の平均気温は2016年には頭打ちとなり、2017、18年は下降に転じています(※6)。サイクル24のような低いピークが2-3回続けばダルトン型の極小期になり、ピークが更に低下して長期の黒点ゼロ期に入ればマウンダー型の小氷期の再来となる可能性があります。いずれにせよ約11年の太陽黒点サイクルがあと2-3回繰り返されると、温暖化の太陽活動原因説の当否は自然に明らかになります。また同時に、そのとき依然として世界の温暖化が続いておれば二酸化炭素原因説が圧倒的に優勢になるでしょう。なお、太陽関連の温暖化説にもう一つ「宇宙線原因説」があります。この説には立証困難な仮説のステップが多すぎること、また近未来の気温予測には適さないことから説明は省略します。興味のある方は「宇宙気候学」で検索してみてください。次の第54話は温暖化二酸化炭素原因説です。

(馬屋原 宏)

1)Skeptical Science:https://www.skepticalscience.com/translation.php?a=7&l=112)北村晃寿:http://akihisakitamura.la.coocan.jp/41ka.pdf
3)Robert Allison:http://robslink.com/SAS/democd24/sunspot.htm
4)深井有:『地球はもう温暖化していない』平凡社新書(2015)
5)In Deep:https://indeep.jp/solar-cycle-24-is-finished-in-historical-short-span/
6)気象庁:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_wld.html