谷学発!常識と非常識 第58話 睡眠とは何か②:睡眠の種類

1.ノンレム睡眠とレム睡眠

脳の状態は、脳波の波形によって、覚醒、ノンレム睡眠、レム睡眠の3つに区別されます。レム睡眠の「レム」とは急速眼球運動(Rapid Eye Movement、REM)を意味し、睡眠中にまぶたの下で眼球が急速に動くことからレム睡眠と名付けられました。レムを伴わない睡眠はノンレム睡眠と呼びます。

2.睡眠周期と睡眠経過

左の図(文献1より引用)は脳波測定による終夜睡眠の典型的な経過を示します。上段が若年成人、下段が老年者の睡眠経過の例です。図の縦軸は睡眠の種類とノンレム睡眠の深度、帯のない部分はノンレム睡眠、青帯はレム睡眠、黒帯は覚醒を表します。上段の若年成人では、睡眠はノンレム睡眠に始まりレム睡眠で終わる、約90分周期の変化(睡眠周期という)を繰り返しています。
入眠後最初に現れるのはノンレム睡眠です。若年成人では、入眠後、ノンレム睡眠は、深度1から4まで深くなり、深度3-4のノンレム睡眠が約1時間続きます。このとき、徐波と呼ばれる4Hz以下のゆっくりした脳波が出現するため、この深い睡眠は「徐波睡眠」と呼ばれます。
ところで、上段と下段の図を比較すると、若年成人と高齢者の睡眠経過のあまりの違いに驚かされます。以下、両者の睡眠経過の特徴をまとめ、それらの違いの原因について考えます。

3.若年成人の睡眠:若い人は深く眠れる

若年成人の睡眠経過(上段の図)には、以下の特徴があります:
① 若年成人は通常、入眠から翌朝の覚醒まで、1度も中途覚醒しない。
② 最初の入眠後、睡眠は段階的に深くなり、約30分で深度3-4の徐波睡眠に達する。徐波睡眠が約1時間続いた後、睡眠深度は急速に浅くなり、短いレム睡眠を経て最初の睡眠周期が終わる。
③ 最初の睡眠周期が終わっても、レム睡眠は覚醒せずに2つ目の睡眠周期のノンレム睡眠に移行する。以後も各睡眠周期の終わりで中途覚醒せず、終夜睡眠の終わりで覚醒する。
④ 入眠後最初と2回目の睡眠周期は、深度3-4の深いノンレム睡眠が特に長く、レム睡眠は短い。
⑤ 3回目以後の睡眠周期では、ノンレム睡眠の深度が徐々に浅くなり、時間も短くなる。逆にレム睡眠は徐々に長くなる。両睡眠の比率は変わるが、1つの睡眠周期の長さ(約90分)は変わらない。

4.加齢と睡眠:高齢者は深く眠れない

一方、下段の高齢者の睡眠経過を見ると、以下の特徴があります:
① 高齢者の就寝時刻と起床時刻は、若年成人より、およそ2時間早まる(早寝早起きになる)。
② 高齢者では中途覚醒が増加する(上の図では実に10回も中途覚醒している)。中途覚醒はノンレム睡眠の途中でも、レム睡眠の途中でも起こる。
③ 高齢者は、ノンレム睡眠もレム睡眠も持続性が低下し、約90分の睡眠周期も殆ど消失している。
④ 高齢者は熟睡(深度3+4のノンレム睡眠、徐波睡眠)の時間が著しく減少している。
⑤ 高齢者では、入眠と覚醒に時間がかかり、中途覚醒が多い結果、ベッドに入っている時間は同じでも、全睡眠時間は減少し、ノンレム睡眠時間も、レム睡眠時間も共に短縮している(※1)。
更にこの睡眠経過図には示されていませんが、高齢者では、早朝覚醒と再入眠困難もしばしば見られます。例えば、入眠から約3時間または4時間半後(睡眠周期2つあるいは3つ経過後)に目が覚めてしまい、もう一度眠ろうと努力しても眠れないまま朝を迎えてしまうことも珍しくありません。
ただし、高齢者の睡眠経過には個人差が大きく、睡眠経過が若い人と殆ど変わらない人もあり、また、各睡眠周期は正確でも、その終わりごとに(つまり約90分おきに)必ず中途覚醒する人もいます。終夜睡眠の最後に起こるべき覚醒が、各睡眠周期の終わりに起きるもので、これも老化現象です。

5.高齢者が早寝早起きになる理由

若い頃は夜型だった人でも、高齢になると早寝早起き型になります。これは睡眠とは何かを理解する上で重要な現象です。一般に睡眠が必要な理由は、「脳が疲れて休息を必要とするから」と考えられがちですが、それは誤解です(※1)。脳が疲れることが睡眠を生み出すのであれば、疲れやすい高齢者の睡眠は若い人よりも深く長くなるはずですが、事実はその逆です。睡眠は脳が脳自身を休ませ再生させるための高度な機能であり、高齢者によく起こる、熟眠困難、睡眠維持困難、睡眠時間短縮などは、睡眠を創り、維持・管理する機能が衰えたために起こる、一種の「老化現象」です。
一般に高齢者が早起きになる理由は、早朝に中途覚醒したとき、再入眠できず、やむをえず早朝から起き出すためです。また高齢者は、睡眠が浅いため、覚醒後も慢性的な睡眠不足状態にあり、結果的に昼間は居眠りや昼寝が多くなり、夜も早くから眠くなるので、自然に早寝・早起きになります。
高齢者が夜中に何度もトイレに行くのは普通、尿意のためと思われていますが、中途覚醒とも大いに関係があります。高齢者が中途覚醒したとき、尿意がほとんどなくても、次の睡眠が尿意で中断されないようにと、いわば予防的に必ずトイレに行くので、余計に回数が増えるのです。

6.なぜ2種類の睡眠が必要なのか?

上の上段の図では、ノンレム睡眠とレム睡眠が90分周期で規則正しく反復されており、下段の図でも、頻繁な中途覚醒に寸断されながらも、ノンレム睡眠とレム睡眠が交互に出現しています。これらを見ると、なぜ2種類の睡眠が必要なのかという疑問が湧きます。進化論的には、レム睡眠は大脳皮質があまり発達していなかった変温動物の原始的な眠りと共通する性質をもっています。その根拠の1つが骨格筋の不動化の程度です。レム睡眠時の骨格筋の不動化の程度は、ノンレム睡眠時よりも強く、例えばネコは、ノンレム睡眠時はうずくまって寝ますが、レム睡眠時には完全に脱力して横倒しになります(※3)。両生類や魚類などの変温動物が原始的睡眠をとるとき、最も重要な機能は、身体を不動化させることだったと考えられます(※2)。変温動物では、骨格筋の緊張を解いて身体を麻痺状態にしておけば、意識水準の低下した状態で勝手に動いて危険を招くこともなく、体温も代謝も自然に下がり、省エネにもなるからです。
一方、鳥類や哺乳類のような恒温動物では、身体を不動化させるだけでは、体温も代謝も大脳機能も殆ど低下しません。そこで大脳機能を低下させるための、新たな睡眠方法として、ノンレム睡眠を進化させたと考えられます(※2)。この新しい睡眠方法のもとで、ノンレム睡眠時の大脳の機能は強く抑制され、大脳の温度・血流量、ブドウ糖消費、ニューロン活動、意識水準は、いずれもノンレム睡眠のほうが、レム睡眠よりも低くなっています(※2)。
ノンレム睡眠とレム睡眠は、別の調節機構と別の役割を持ち、対比的で相補的なものであり、ヒトは両方の睡眠を必要としています(※2)。ノンレム睡眠とレム睡眠のそれぞれの役割については、第60話と第61話で詳しく取り上げます。
次の第59話では、睡眠と覚醒の一般的な調節のメカニズムについてまとめます。

(馬屋原 宏)

引用文献
1)日本睡眠学会:http://jssr.jp/kiso/hito/hito06.html
2)井上昌次郎:https://www.jstage.jst.go.jp/article/sobim/29/4/29_4_181/_pdf/-char/ja
3)掘忠雄:『眠りと夢のメカニズム』、サイエンス・アイ新書(2008)