統計ひと口メモ(第4話)「生殖発生毒性試験で出現率が0(ゼロ)多発の場合の統計手法は?」
名古屋市立大学大学院医学研究科 非常勤講師 薬学博士 松本一彦
「生殖発生毒性試験において、ラットの波状肋骨出現率に関して、平成9年のガイドラインでは対照群と高用量群で有意差検定を実施し、有意となった場合には、多重比較検定をすることが記載されています(平成9年4月14日薬審316号)。それに関して、2002年に医薬安全性研究会で「ドラマ:生殖発生毒性試験の統計」という題で寸劇が実施されました(医薬安全性研究会第90回 定例会資料)。ここでは、そのドラマの結論に沿った統計手法について解説します。なおデータは一部改変しています。
ラット波状肋骨出現率
前回の「統計一口メモ 第3話」では、パラメトリック(正規分布)の場合、群構成が用量の場合はDunnett検定ではなく、Williams検定を使うことを勧めました。でも、このようにゼロが多いデータは正規分布していないのでノンパラメトリック検定を使うことになります。DunnettのノンパラメトリックにはSteel(スチール)検定があり、Williams検定にはShirly Williams(シャーリー・ウィリアムズ)検定があります。先のドラマの結論はShirly Williams検定を使うべきだとなっていました。そこで、今回はShirly Williams検定について解説します。
§1.Shirly Williams検定とは
【永田・吉田本】1)から引用します。
① 第1群(0mg/kg)から第4群(60mg/㎏)を併せて小さいものから順位をつけます。
② 第1群を除いて平均順位を計算します(1群は対照群となります)。
y24= (R24+R34+R44)/(n2+n3+n4) = (308+277+370.5)/(12+12+12) = 26.542
y34= (R34+R44)/(n3+n4) = (277+370.5)/(12+12)=26.979
y44= R44/n4 = 370.5/12 = 30.875
③y24、y34、y44の中から最大値M4を求めます。
M4=max{y24,y34,y44}=30.875
④ 統計量U14を求めます(最初は1群から4群の解析だから、次はU13となります。)。
U14 = R14/n1=220.5/12=18.375 R14は1群(0mg/kg)の順位合計です(①の表)。
⑤ 分散を求めます。
N4 = n1+n2+n3+n4 = 12+12+12+12 = 48
V4 = 1/(N4-1) x {ΣΣrik2-[N4(N4+1)2/4]} =
= 1/(48-1) x {5.52+23.52+—+41.52-[48x(48+1)2/4]} = 195.489
⑥ 検定統計量t4を計算します。
t4=(M4-U14)/√V4(1/n4+1/n1)=
(30.875-18.375)/√195.489(1/12+1/12)=2.190
⑦ Williams表:上側5%点から(ソフトでは自動計算)
t4=2.190>ω(4,∞,0.05)=1.739となるから,「μ4はμ1より大きい」と判定します。
⑧ 次に,第1群と第3群までを比較します。そのために,第1群から第3群を併せて小さいものから順位をつけ,先の計算を繰り返します。
t3=(M3-U13)/√V3(1/n3+1/n1)=1.092を得ます。
t3=1.092<ω(3,∞,0.05)=1.716となるので,有意差なしとして検定作業を終了します。
第3群に有意差がみられなかったので第1群と第2群の検定は行いません(下降手順)。
以上より,40mg/kg群と0mg/kg群間に有意差があるといえます。
§2.ラット波状肋骨出現率をPharmaco Basicでやってみると。
Pharmaco入力形式に並べ替えます
60mg/㎏(第4群)のみ緑色で5%有意を示しています。30mg/㎏(第3群)はp=0.053で 有意とはなりませんでした。したがって、その下の15mg/㎏(第2群)以下は検定しません。
§3.まとめ
一般的に出現率であればカテゴリカルデータ解析で2xb分割表を使いますが、多重比較検定を要求されている場合でゼロが多いデータではノンパラメトリック検定を用います。ただ、Shirly-Williams検定が搭載されているソフトはSASとRそしてPharmacoぐらいだと思います。
1)永田靖、吉田道弘「統計的多重比較法の基礎」サイエンティスト社