谷学発!常識と非常識 第75話 生命の起源と進化⑤:―カンブリア爆発以後の生物の進化と5回の大量絶滅

今回は前回に引き続き、顕生代(カンブリア爆発以後、すなわち古生代、中生代、新生代)の生物の進化、および繰り返された大量絶滅の原因とそれらの影響に関してまとめます。

1.古生代 (5.4億年前~2.5億年前)

原生代末期の2度の全球凍結に耐えて生き残った生物は、古生代初期のカンブリア紀とオルドビス紀に爆発的に増殖・進化しました(下図参照)。この現象を「カンブリア爆発」と呼び、現存の生物の祖先の殆どはこの時期に出現しました。しかしその後生物界は、現代までの約5.4億年間に少なくとも5回の大量絶滅を経験します。下の図(文献1より引用)は、古生代のカンブリア爆発以後現代までの生物(科)の数を示しています。グラフが急激に低下する所(番号と矢印で表示)が5回の大量絶滅の時期とその程度を示しています。

古生代初期の4.7億年前、オゾン層の形成により紫外線が減少していた陸地に、最初の陸上植物(コケ類・シダ類、※注)が上陸しましたが、4.43億年前のオルドビス紀末の大量絶滅(原因は後述、以下同様)で、推定86%の生物種が絶滅しました(上図の①)。4億年前には、昆虫類を含む節足動物と両生類が最初の陸上動物として上陸した後、3.6億年前にはデボン紀末の大量絶滅で全生物種の75%が絶滅しました(上図の②)。約3億年前には、最初の爬虫類が出現しましたが、2.5億年前のペルム紀末の史上最大の大量絶滅で、三葉虫、有孔虫(フズリナ)など海洋生物種の96%、陸上生物種の90%が絶滅しました(上図の③)(※2)。

2.中生代 (2.5億年前~6,500万年前)

2.5億年前に最初の哺乳類が出現した後、2.1億年前の三畳紀末の大量絶滅でアンモナイトの一部や恐竜類の一部など全生物種の80%が絶滅しました(上図の④)。更に、6,500万年前の白亜紀末の最後の大量絶滅では、全ての非鳥恐竜やアンモナイトを含む76%の生物種が絶滅しました(上図の⑤)(※2)。

3.新生代 (6,500万年前~現代)

新生代では最後の大量絶滅で非鳥恐竜等が絶滅してガラ空きになった生態系で、羽毛を持ち高体温の鳥型恐竜の子孫の鳥類と、体毛を持つ小型の哺乳類が爆発的に進化し、現代に至ります。

.大量絶滅の原因

大量絶滅は以下の4つのどれかが原因で地球の急激な寒冷化が起きたためと考えられています:

  • 火山の噴煙による寒冷化:世界の火山の多くは列島上にあります。これらの列島火山はプレート境界に沿っており、重い海洋プレートが軽い大陸プレートの下に潜りこむときの摩擦熱がマグマとなって噴出するタイプの火山です。超大陸の分裂などが原因で、これらの火山列の活動が一斉に活発化すると、大量の噴煙が長期間にわたって地球を覆い、日射量が減少して寒冷化し、食物連鎖が崩壊して動植物の大量絶滅が起きたと考えられます。
  • マントル対流の異常による寒冷化:超大陸の形成時など、海水を含む海洋プレートのマントルへの沈み込み量が増加し、マントルの対流に異常が起き、大量のマグマが長期にわたり地表に噴出し、その噴煙による太陽光の減少による寒冷化が大量絶滅を起こしたという仮説です。西シベリアに残る日本の面積の数倍もの溶岩台地(洪水玄武岩)がその痕跡であると言われます。
  • 雲量の増加による寒冷化:銀河系宇宙と他の小宇宙との合体、あるいは太陽系が銀河系宇宙の腕(恒星密集帯)を横断した際に、超新星爆発に起因するガンマ線バーストの回数が増加し、雲の核となる大気中のイオンが増加して雲量が増加し、太陽光を反射して寒冷化した。
  • 巨大隕石の落下による寒冷化巨大隕石が落下すると、粉塵と熱波による大規模な森林火災の煙が長期間にわたって全世界を覆い、太陽光が遮られて地球が寒冷化し大量絶滅が起きた。

上記5回の大量絶滅のうち、原因の特定が最も進んでいるのは6500万年前の白亜紀末の最後の大量絶滅です。証拠はそのときの粉塵が含まれるK/Pg境界と呼ばれる地層に、宇宙由来と考えられるイリジウムなどの重金属が豊富に含まれること、また、同時代に形成されたと考えられる直径約200kmのクレーターの痕跡がメキシコのユカタン半島沖に発見されたことです(※2)。

5.ベルム期末の大量絶滅の原因に関する新説

2.5億年前のペルム紀末の史上最大の大量絶滅は他の4回の大量絶滅よりも規模が大きいため(上図の赤丸③)、複合的な原因が考えられています。最近、東北大学の海保邦夫名誉教授らは、ベルム期末の地層(P/T境界)に有機分子コロネン(注:ベンゼン核が6個環状に結合した化合物)が高濃度に含まれることを発見しました。コロネンは炭化水素類が通常の森林火災よりも高温で燃焼するとき生成されるため、彼らはシベリア西部に洪水玄武岩として残る大量のマグマの噴出により、地下の天然ガスや化石燃料が高熱でガス化した炭化水素が地上に大量に噴出し、長期間高温で燃焼した証拠がコロネンであり、大気中の煤や噴煙による短期的な寒冷化の後、急上昇した大気中の二酸化炭素による温室効果で、極端な地球温暖化が起き、これが長期間続いたため、史上最大の大量絶滅に至ったと説明しています(※3)。

6.大量絶滅の意義

上図で注目すべきは、5回の大量絶滅の後、毎回必ず生物種(科)の数が急速に回復し、大量絶滅の前を大幅に上回る増加を示していることです。これは生き残った少数の生物が、支配的だった種が絶滅した後の、ガラ空きのニッチ(生態学的空間)に進出して適応放散したことを意味します。すなわち大量絶滅は絶滅種にとっては悲劇ですが、生物全体の視点から見れば、大量絶滅が生き残った生物に、生態学的空白を埋める増殖と進化の絶好のチャンスを与えたことが分かります。

以上2回の話題で概観した過去40億年間の生物の進化の歴史を簡単にまとめると、生物は約40億年かけて、原核細胞から真核細胞へ、単細胞生物から多細胞生物へ、無性生殖から有性生殖へ、地中や水中から地上や空中へと、複雑化、巨大化、及び生息環境の多様化の方向に進化してきました。その過程で生物界は少なくとも3回の全球凍結と、5回の大量絶滅を経験しましたが、一部の生物が生き残り、その後適応放散により大量絶滅前を上回る爆発的進化を遂げ、40億年間1度も途切れることなく生命をつないできました。ただし、全ての生物が進化したのではなく、数十億年あるいは数億年の間、少しも進化しなかったように見える生物も多数います。

(次の第76話からは、進化とは何かを考えるため、各種の進化論を取り上げます。)

(馬屋原 宏)

1)引用文献日経サイエンス:https://www.nikkei.com/article/DGXBZO58747510R20C13A8000000
2) 長谷川政美:『進化38億年の偶然と必然』、(株)図書刊行会(2020)
3)海保邦夫:https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2020/11/press20201109-01-permian.html

(※注:第70話「生物と非生物の境界」の2-1項、【中心体】の記事に「植物は中心体を持たない」と書きましたが、これは「被子植物は中心体を持たない」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。

コケ、シダ、イチョウ、ソテツなど、裸子植物(隠花植物)のような、生殖のとき精子を作る植物の細胞は中心体を持ちます。なお、HP原稿は修正済みです。)