谷学発!常識と非常識 第40話 卵子の加齢について ~少子化の隠れた要因の一つ?~ 2.卵子はどうやって作られるのか

図1.卵母細胞(卵子)の成熟から排卵まで5)

2.1 始原生殖細胞

 男女ともに、生殖細胞のもとは始原生殖細胞で、発生のごく初期に体細胞から分離して、ある期間後腸の内胚葉上皮細胞の間に留まっています。生殖腺(精巣又は卵巣)の原基が形成されると、始原生殖細胞は生殖腺原基に移動し、ここである程度増殖します。

2.2 精子形成

 精巣原基に入り込んだ始原生殖細胞は、発生のごく初期に精巣(睾丸)の精細管内に到達しますが、これ以後は思春期に至るまで活動を停止します。

 思春期になると、始原生殖細胞は盛んに増殖して精原幹細胞となります。この精原幹細胞は老齢に至るまで絶えず分裂して、精原細胞を生産し続けます。思春期以降、精原細胞は精細管の基底膜から離れて管腔に向かって移動し、精原細胞から成長した精母細胞が減数分裂を始めます。減数第一分裂の前期~中期では、相同染色体が対合して二価染色体を形成します。分裂後期には対合していた相同染色体が分かれて 2 個の娘細胞に入り染色体数が半減することになります。この時、性染色体のXとYは、2個の娘細胞のどちらかに入り、第二分裂では各々の細胞が分裂し、X を持つ精細胞とYを持つ精細胞が2個ずつできます。精細胞は、その後特別な変態を行って精子となります。男の精子形成は、思春期から始まって老齢に至るまで絶え間なく行われています。

2.3 卵子形成

 卵巣原基に達した始原生殖細胞は、胎生期中に盛んに分裂増殖して次の段階の卵原細胞となり、細胞の周囲を支持細胞で包まれた原始卵胞の状態となります。この状態で卵原細胞は、増殖を完了し卵母細胞となります。胎生7ヵ月頃に、減数第一分裂が始まりますが、分裂前期の途中で停止してしまい、卵胞に包まれたまま、出生の時から性成熟するまでの長い間、この休眠状態を保つことになります。

・卵巣は卵子の生育の調整機関:ヒトでは、生まれてきた女性の卵巣は、生殖細胞である卵子を貯蔵している臓器であり、卵子を生産する臓器ではなくなってしまっています。その代わり、卵巣は卵母細胞(卵子)の生育を調整する、重要な役割を担っています。この一連の流れを、初潮を迎える女性を例に表2にまとめてみました。ただし、この卵子の生育には、多くの女性ホルモンが複雑に関係し、卵母細胞や卵胞の生育をコントロールしています。詳しいことは成書を読んで頂くこととし、ここでは最小必要限の記述に留めます。

表2.初潮を迎える女性の卵巣内での卵子の生育

 なお、卵巣における卵子(卵母細胞)と卵胞の発育状態から排卵に至るまでについては、図1を合わせご参照ください。解り易く描かれています。

 思春期になると、初潮の約1年前、卵胞刺激ホルモン(FSH)に刺激された数十個の原始卵胞が発育を開始して、一次卵胞から二次卵胞となり、その中の卵母細胞は周囲から栄養分を取り入れて大きくなります。そして、これらの二次卵胞の中のただ1個だけが、胞状卵胞と大きさを増し、2週後には直径 1.5~2.0cm ものグラーフ濾胞となり、卵巣の表面に突隆します。卵母細胞も直径150~200μm になると共に、減数分裂を再開して第一分裂の中期に入ります。グラーフ濾胞は更に巨大となり、卵巣の表面から突隆している頂上部分が破裂し、その勢いで卵母細胞は卵胞細胞に包まれたまま、卵胞液と共に腹腔に放出され卵管に取り込まれます(排卵)。

 このように、成人女性の卵巣では、月経周期に合わせて、卵母細胞(卵子)の生育・成熟・排卵が、28日周期で閉経迄、連綿と繰り返されています。

 基本的には、生殖可能な年齢になると、毎月数十個の卵胞が発育を開始しますが、その中からただ一個の卵胞が自動的に選択され発育を続け排卵されます。その他の卵胞は縮小し閉鎖卵胞となり吸収されてしまいます。最終的には、女性は一生の中で約300〜400個の卵子を排卵することになります。

2.4 受精から卵割開始まで

 排卵された卵子(卵母細胞)は、精子が来れば1個の精子を受け入れて受精し、これが刺激となって第一分裂を完了して第一極体を放出し、続けて第二分裂に入ります。

 ここで、極体について説明します。卵母細胞は第一分裂末期の細胞質分裂の時、受精後の卵割に備えるため細胞質の極端な不等分割をし、一個の卵子に栄養分を集中し、もう一方の細胞はほとんど核だけの第一極体となります。続く第二分裂でも同様にして第二極体となります。これら極体はのちに消滅します。

 卵子に進入した精子の頭部は次第に大きくなって男性前核となります。 この頃、卵子の核は第二分裂を完了し、第二極体を放出して、ようやく女性前核となり、卵子の中心部に移動して、男性前核に近づきます。両方の前核からそれぞれの染色体が現れ、分裂中期の状態となります。この時が厳密な意味での、染色体数が2n(46=44+XXあるいは46=44+XY)の原胚子が成立した瞬間です。そして、分裂後期から終期には、個々の染色体の染色分体が分かれて、それぞれ原胚子の両極に移動して 2n の核が2個成立し、原胚子は中間部がくびれて 2 個の娘細胞となります。これが原胚子の1回目の卵割で、受精後約 24 時間で完了し、引き続き2回目以降の卵割に進むことになります。

2.5 卵母細胞が成長過程で減数分裂を中断し休眠するのは何故か?

 これまで述べてきたように、卵原細胞は胎生期間中に卵母細胞となり、減数第一分裂前期まで進みますが、出生前には分裂の進行が止まり、思春期まで休眠に入ります。ということは、卵原細胞から排卵までの期間が、初潮の時で13年、45歳の女性では45年経過していることになります。

2.5.1 多くの動物では減数分裂の途中で分裂を休止

 では、ヒト以外の動物でも、このような減数分裂の途中での休止が起こるのでしょうか?

 動物の場合を見てみましょう。動物(ヒトを含む)では通常、一つの卵母細胞からは一つの卵子しか生じず、減数分裂で生じたそれ以外の細胞は極体と呼ばれ、後に消滅します。この減数分裂の過程は減数第一分裂前期の複糸期で一旦停止し、卵子が必要になるまで卵核胞(germinal vesicle, GV)の状態を(マウスでは数ヶ月、ヒトでは十数~数十年)維持します。

 減数分裂の再開後、ゴカイなどの環形動物、軟体動物では減数第一分裂前期、ホヤ(尾索類)、ヒトデ(棘皮動物)、多くの昆虫、ツバサゴカイ(環形動物)では減数第一分裂中期、両生類、硬骨魚類、多くの哺乳類では減数第二分裂中期で再び停止し、受精によって初めて第二極体が放出されます。また、ウニ(棘皮動物)では減数分裂が終了してから受精します(Wikipedia より引用)6)。

 このように、減数分裂の途中で分裂を休止することは、多くの動物で知られており、動物界では一般的にみられる現象と考えられます。

2.5.2 染色体不分離の原因

 卵母細胞の減数第一分裂中期では、紡錘糸と動原体との接続・結合が不安定で、その状態が数時間続くことが、理化学研究所 生命機能科学研究センター 染色体分配研究チームの吉田ら(2015)7)により発見されました。 このような結合の不安定性のために、減数分裂では染色体不分離が起こりやすいことが確かめられたわけです。 一方、体細胞分裂では、紡錘糸と動原体との結合は安定していることが確認されています。

2.5.3 疑問点

 細胞分裂期は、細胞学的には、きわめて不安定な時期であり、内的・外的要因の影響を受け易いと考えられます。にもかかわらず、減数分裂の途中で分裂を休止するということに、如何なる生物学的意味があるのかという疑問がつきまといます。

そこで皆さんに質問です。

・質問

1. 哺乳動物の卵母細胞は、減数第一分裂の前期という時期に分裂を長期間休止するのは何故か?

2. 分裂再開後、受精に至るまでの間に、再度分裂を中断するのは何故か?

3. 減数第一分裂中期に、紡錘糸と動原体の結合が極めて不安定な時期が生じ、染色体不分離を起こしやすいのは何故か?

皆さん、次回までの宿題として、お考え下さい。

次回は、本題の卵子の加齢についてです。

 

参考資料

5. http://www015.upp.so-net.ne.jp/j-hata/husigi/2ransiseisinoseijyuku.html

6. https://ja.wikipedia org/wiki/ 卵母細胞. 2018.3.14.

7. Yoshida, S., M. Kaido and T. S. Kitajima 2015. Inherent instability of correct kinetochore-microtubule attachments during meiosis I in oocytes.

Developmental Cell, 33(5): 589–602.

 

(菊池康基)