谷学発!常識と非常識 第48話 世界の平均気温の謎(1):平均気温の計算方法

1. 世界の平均気温の経年変化


左の図(文献1より引用)は気象庁が提供している過去約130年間の世界の年平均気温の偏差の推移です。横軸は西暦年、縦軸は1981-2010年の年平均気温の平均値からの偏差(平均値を差し引いた値)です。世界の年平均気温はグラフ上の赤線が示すように130年間に約1度、100年あたりでは約0.73℃の割合で上昇しています。このグラフを見ていると、以下の疑問が湧いてきます:

①このグラフはどのような測定と計算によって描かれたのか、

②赤線のような温暖化傾向はいかなる原因で生じたのか、

③平均気温の上昇が直線的でなく、1890~1915年の約25年間、1940~1975年の約35年間、及び1998~2014年の約15年間の、合計約75年間、つまり約130年間のうちの半分以上の期間は気温の上昇がないか、むしろ下降気味だったのはなぜか、

④これらの平均気温の停滞期間が過ぎると、気温が急上昇したのはなぜか、などです。

②~④は温暖化のメカニズムに関係しており、あとで取り上げるとして、まず①の「世界の平均気温の計算方法」を取り上げます。

 

2.世界の平均気温の計算方法

気象庁の資料に解説されている世界の平均気温の計算方法を以下に要約します(※1)。1)と2)は計算に用いられるデータの説明で、3)が平均気温の計算方法です。あまりにも複雑なので、以下の1)~3)項は適当に読み飛ばして、3項に進んでいただいても結構です。

1)陸域で観測された気温データ

1880~2000年までは,米国海洋大気庁(NOAA)の世界歴史的気候学ネットワーク(GHCN)のデータを主に使用。2001年以降は、気象庁に入電した月気候気象通報(CLIMAT)のデータを使用(地点数は1000~1300)。都市化による昇温が世界の平均気温に与える影響は殆ど無視できるとしている。

(筆者注:都市で測定された気温データは都市化の影響を無視できないが、下記のようにデータの7割を占める海洋データは海水温データであり、都市化の影響はない。陸上でも都市でない測定地点も多いため、総合的には都市化の影響は無視できる、という意味であろう。)

2)海面水温データ

海上では海面水温のデータを使用。1891年以降整備されている、COBE-SSTと呼ばれる100年以上に及ぶ海面水温解析データであり、緯度・経度方向1度の格子点データになっている。なお、気象庁は海面水温のデータを使う理由を次のように説明している:

「均質な海上気温データの整備が難しいことから、世界的に広く海面水温データを用いた世界の平均気温の算出が行われています。海面水温の変化は、広域的・長期的には直上の海上気温の変化と同じとみなせることが確かめられています。」

3)世界の平均気温(年・季節・月)の算出方法

世界の平均気温の算出方法は以下の(1)~(4)である。(1)は更に①~③から成っている。

(1)地球の全表面を緯度方向5度、経度方向5度の格子(以下5度格子)に分け、各5度格子の月平均気温の偏差(平均気温から1971~2000年の30年平均値を差し引いたもの)を算出。

①5度格子内に陸域で観測された気温データが存在する場合
各5度格子内の全ての観測地点の月平均気温の偏差の平均を月平均気温の偏差とする。

②5度格子内に海面水温データが存在する場合
各5度格子内のすべての1度格子の月平均気温の偏差の平均値を月平均気温の偏差とする。

③5度格子内に陸上で観測されたデータおよび海面水温データがともに存在する場合
上記①および②で求められた各5度格子の月平均気温の偏差を5度格子内の海陸比で配分する。

(2)各5度格子の月平均気温偏差に、緯度による面積の違いを考慮した重みをつけた値を、世界全体について平均する(高緯度ほど面積が少なくなることの補正)

(3)(2)で算出した値を年・季節で平均する。

(4)年・季節・月のそれぞれについて、1981~2010年の30年間の世界平均と、1971~2000年の世界平均との差を(2)や(3)で算出した値から差し引いて、その年・季節・月の世界の平均気温の偏差(1981~2010年を基準とする偏差)とする。

上記の方法で計算された世界の年平均気温の偏差の経年変化が最初に掲げたグラフです。

3.世界温暖化の地域差

次の図(文献2より引用)は世界の年平均気温の算出に用いられた5度格子ごとの最近約40年間の平均気温の偏差の状況を示した地図です。世界の温暖化の地域差が分かります:

色がついた丸いドットは、緯度・経度の5度格子ごとに1つあります。ドットの数は、東西方向に最大72個(360÷5)、南北方向には36個(180÷5)あります。砂漠、熱帯雨林、極地などにはデータのない空白地域があります。ドットの色は1979年以後の平均気温(偏差値)の長期変動傾向を10年あたりの気温の変化量で示したもので、ドットが赤いほど温暖化(濃赤色は0.25℃/10年以上)、青いほど寒冷化を示し、灰色は有意差なしです。赤いドットが圧倒的に多いことから地球温暖化は明らかです。また以下の極めて興味深い地域差が認められます:

①  概して南半球よりも北半球、海域よりも陸域の温度上昇傾向が高い。
②  温暖化が最も激しいのは北極海、欧州、シベリア、カナダ等、北半球の高緯度地方である。
③  陸域では北半球の高緯度地域の他、地中海周辺、アジア東部、北米の温暖化が激しい。
④  海域では北極海、大西洋北部、太平洋西部の中緯度で海面温度の上昇が大きい。
⑤  海域でも太平洋の東半分、赤道近辺、および南極海は有意差がないか、下降気味である。
⑥  南極半島を除き、南極大陸沿岸部は陸域も海域も変化がない。

上記をまとめると、温暖化の地域差は極めて大きく、北半球の高緯度地方の温暖化が特に顕著ですが、注目されるのはこれだけ温暖化が叫ばれていても、太平洋東部や南極周辺のように、この約40年間にほとんど温暖化が起きていない地域もあることです。このことは後に地球温暖化の原因を考える際に重要な手がかりを提供します。

次の第49話では温暖化が最も激しい北極海の温暖化の状況と、その原因について見ていきます。

(馬屋原 宏)

1)気象庁:http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_wld.html
2)気象庁:http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/62/13.html学発!常識と非常識 第48話 世界の平均気温の謎(1):平均気温の計算方法