谷学発!常識と非常識 第54話 地球温暖化の原因(2):二酸化炭素原因説
1. 二酸化炭素濃度の急上昇
左の図(文献1より引用)は南極ボストーク基地の氷床コアから測定された過去約80万年間の二酸化炭素(以下CO2)濃度に現代のCO2濃度を加筆したものです。CO2濃度は激しく変動していますが、80万年間を通じ180~280ppmの範囲内に収まっています。その理由は、CO2濃度が約10万年周期で約10℃の幅を変動する気温と極めてよく相関していたからです(第51話参照)。
ところが最近のCO2濃度は過去80万年間の上限を遥かに逸脱し、急上昇を続けています(赤矢印)。
2. 温暖化二酸化炭素原因説
温暖化二酸化炭素原因説とはこの急上昇中の二酸化炭素に注目し、これが近年の地球温暖化の原因であるとする仮説です。国立環境研究所の江守正多氏はこの仮説を次のように説明します(※2、3):
① CO2には地球温暖化作用(赤外線を吸収し放出する性質)がある。
② 大気中のCO2濃度は過去数十万年間、約180~280 ppmの間を上下していたが、産業革命以後急上昇し始め、現在は410 ppmを超え、なお急上昇中である。
③ このCO2の急上昇の原因は人類による化石燃料の大量消費以外の要因では説明できない。
④ この人為起源の温室効果ガスの増加を条件として気候モデルに与えて20世紀の気候のシミュレーションを行うと、観測された気温上昇と整合的な結果が得られる。一方、温暖化ガスの上昇がないと仮定すると現実と整合しない。故に20世紀後半の気温の上昇は人為起源の温室効果ガスの増加である可能性が高い。
⑤ この同じ気候モデルを用いて将来のシミュレーションを行うと、対策を行わなければ2100年には地球の平均気温が最大で4.8℃上昇する結果が得られる。
上記④⑤から二酸化炭素原因説の主な根拠はシミュレーションの結果であることがわかります。懐疑論者は「二酸化炭素が地球温暖化を起こしているという確実な証拠はあるのか?」と質問しますが、江守氏は次のように答えています:
「将来の温暖化とまったく同じ状況は過去になかったわけですから、裁判における証拠のような完全に実証的な意味での証拠はありません。しかし、はっきりした物理学的な根拠ならあり、その根拠をわかりやすく示すいくつかの証拠もあげることができます。」(※4)
3.二酸化炭素温暖化論者と懐疑論者の質疑応答
江森氏は懐疑論者の攻撃に常時曝されているので、二酸化炭素原因説に対する想定問答集を公開しています(※2、3)。以下、懐疑論者の質問を「●質問」、江森氏の回答を「回答」で示します:
●質問1:「人類が誕生する前から地球の気温が温暖化したことは何度もあった。二酸化炭素温暖化論者はそれらの歴史を無視し、最近の人類の活動だけを過大評価しているのではないか?」
回答1:「これは単純な誤解である。過去の気候変動に関する知見は将来の温暖化を考える上で明らかに重要であり、さかんに研究されている。例えば気候モデルを用いて過去1000年の気候変動を再現する研究が世界中で行われている。(中略)気温の数百年スケールの変動は太陽活動の変動と火山噴火で概ね説明できる一方で、20世紀の温暖化は人間活動の影響を入れないと説明できない。」
(筆者注1:上記のように二酸化炭素原因論者は太陽活動原因説を一部認め、利用しています。)
●質問2:「シミュレーションでは、欲しい結論が最初から決まっていて、その結論に合うような都合の良い仮定をいくつも入れて計算しているだけではないのか?」
回答2:「実際には多数のシミュレーションの結果を検定にかけて過去の観測事実と最もよく合うものを残しており、最初から結論ありきではない。温室効果ガスの増加の影響がないと仮定して計算すると20世紀後半に気温はむしろ低下してしまい、観測と整合しないのでこの仮定の誤りが証明できる。」
(筆者注2:質問者にも1理あります。2項④のように、過去の現象を説明するためのシミュレーションでは結論(例えば約1℃の温暖化)が決まっていて、これに合うように計算式を構築するからです。また、次の第55話で論じるように、シミュレーションには方法論的限界があります。)
●質問3:「大気中の二酸化炭素の上昇に対する人類の寄与はごく僅かである。大気中の二酸化炭素上昇の主な原因は温暖化で海水温が上昇し、海水中の二酸化炭素の溶解度が低下し、大量の二酸化炭素が海洋から大気中に放出されるからではないのか?」
(筆者注3:この質問への回答は気象庁の説明が図入りで分かりやすいのでそれを以下に引用します。)
回答3:「下図(文献5より引用)は化石燃料の燃焼等により排出される二酸化炭素の収支を示す。
人為起源の二酸化炭素の排出量は年間89億トンである(炭素量換算、森林伐採等の土地利用の変化の影響11億トンを含む)。その収支は、地上の植物等に26億トン、海洋に23億トン吸収され、最終的に行き場のない40億トンが毎年大気中に残り、これが毎年大気中の二酸化炭素濃度を上昇させている。質問者の『人類の寄与はごく僅か』も、『大量の二酸化炭素が海洋から大気中に放出されている』も、共に単純な誤りである。」
(筆者注3(続):二酸化炭素が実際に海洋に吸収されている証拠として、近年、海洋の酸性化(正確にはアルカリ度の低下)が進行していることが挙げられます。)(※6)
●質問4:「二酸化炭素温暖化論者たちは二酸化炭素が増加したから気温が上昇するというが、実際はその反対で、気温の上昇が先で二酸化炭素は遅れて上昇しているのではないか?」
回答4:「エルニーニョ現象などに伴う数年の時間スケールの変動においては、平均気温の上昇・下降に遅れて二酸化炭素濃度の増加・減少が見られる。このことから、温暖化における『二酸化炭素が増加すると気温が上がる』という因果関係の存在を否定しようとする論があるが、これは間違いである。気温上昇によって二酸化炭素濃度が増加するのは陸上生態系の応答によると考えられ、これは温暖化の予測に用いる気候モデルでも再現できる。このことと人間活動による二酸化炭素濃度の増加で長期的に気温が上昇することは両立する事柄であり、現在の温暖化の科学で問題無く説明できる。」
(筆者注4:エルニーニョの事例だけでは不十分です。南極の氷床コアの解析データによれば、氷河期から温暖期への移行時は気温の上昇が二酸化炭素の上昇よりも数百年から1000年程度先行していました(※6)。懐疑論者はこのケースを言っている可能性があり、回答に以下の内容を追加する必要があります:「氷河期から温暖期への移行の場合は太陽と地球の距離の変化による気温の上昇が原因で起こったため、気温の上昇が二酸化炭素の上昇に先行していた。しかし現在の状況は全く異なり、化石燃料の大量消費による二酸化炭素の増加が先行している。」)
●質問5:「最も温室効果の大きい温暖化ガスは二酸化炭素ではなく水蒸気である。二酸化炭素温暖化論者たちは水蒸気を全く無視している。」
回答5:「これも単純な誤解である。実際は大気中の水蒸気の温室効果、移流・拡散、相変化、雲が放射にもたらす効果、温暖化したときの水蒸気や雲の変化などが全て温暖化の科学の中で考慮されている。気候モデルの計算にも入っている。温暖化の文脈では「温室効果ガスといえば二酸化炭素」という説明が多いことから誤解が生じた側面があるかもしれないが、結果的にはデマの類である。」
(筆者注5:回答5には問題が2つあります。1つは水蒸気と温暖化の関係が全て分かっているかのように書かれていますが、実際には水蒸気の気温への影響は異論があり確定していません。第2に、回答5は「最も強力な温暖化ガスは水蒸気である」ことに触れていません。これは事実なので、次の第55話ではこれらを検討し、そのあとで二酸化炭素原因説の立場からの近未来の温暖化予測を取り上げます。)(第55話に続く)。
(馬屋原 宏)
1) あだち安人:http://adayasu.hatenablog.com/entry/20180516/1526479294
2) 江森正多:『異常気象と人類の選択』角川SSC新書(2013)
3) 江森正多;https://news.yahoo.co.jp/byline/emoriseita/20151202-00051987/
4) 江守正多:http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/4/4-1/qa_4-1-j.html
5) 気象庁:https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/db/mar_env/knowledge/global_co2_flux/carbon_cycle.html
6) 多田隆治:『気候変動を理学する』.みすず書房(2013)