谷学発!常識と非常識 第47話 日本の平均気温の謎(3):温暖化は誇張されている?

日本の平均気温は100年間に1.19℃の割合で上昇していると言われています。この平均気温は都市化の影響の少ない15の観測地点の平均気温から計算されていますが、それでもその上昇量のほとんどが都市化による上昇量であり、正味の地球温暖化は0.2℃程度にすぎないとの報告があります。
左の写真(文献1より引用)は、東京大学海洋研究所の大型研究船「白鳳丸」(3,991トン)です。
気象学者のK名誉教授は現役の頃、この船で赤道付近の気象観測をした経験がありました。その際、気温の公式測定データと体感気温とのズレを感じ、ポータブルのアズマン乾湿計で船内各所の気温を3時間毎に測定してみました。当然ながら公式測定位置での測定結果は公式データと同じでした。
ところが船首が風上のときの船首の気温や、船尾が風上のときの船尾の気温が公式データとずれており、公式データが常に0.5度から最大3度も高いことがわかりました。鉄製の大型船全体がヒート・アイランド化していたのです(※2)。
帰国後彼は日本の都市のヒート・アイランド化の平均気温への影響を明らかにするため、都市部にある気象台・測候所(気象官署)とその近くの田舎観測所の過去の平均気温の推移を比較しました。左のグラフ(文献2より引用)はそのまとめです。8箇所の中都市の気象官署の平均気温の平均(上)は100年間に約1℃、8箇所の田舎観測所の平均(下)は、約0.2℃の上昇を示しています。
これらの結果から、彼は次の結論を得ました:
「約100年間の長期気温データについて、日本の中都市に設置されている測候所・気象台(気象官署)と田舎観測所(区内観測所、アメダス)を比較したところ、中都市の気温は、とくに戦後の1950年以降に急激に上がり、2000年には平均値で約0.9℃も上昇している。一方、田舎観測所では気温上昇量は顕著ではなく、この100年間にわずか 0.2℃程度である。つまり、従来いわれている、日本における気温の上昇量(世界平均でも同程度)のうちの大部分は都市化による上昇量であることがわかった。」(※2)
上記の研究は中都市と田舎観測所の平均気温の経年変化を比較することにより、都市化の影響を明白に示した点に高い意義があります。ところで、上の結論を日本や世界全体に当てはめて、「日本のどこでも、(あるいは世界のどこでも)、この100年間の正味の温暖化量はわずか0.2℃程度にすぎない」と受け取ってもよいのでしょうか? 結論から言えばそのような一般化はできません。理由はいくつかありますが、第1に気象庁が日本や世界の平均気温の経年変化を表示する場合のグラフの縦軸は平均気温からの偏差値であるのに対して、上記のグラフは気温そのものです。比較するなら偏差値同士、または気温同士を比較する必要があります。もう一つの問題は、サンプル数が少ない場合は特に、そのサンプルが全体(この場合は日本全体や世界全体)をうまく代表するように選んでおく必要があります。例えば気象庁が日本の平均気温を算出するための15の測定地点を選んだとき、都市化の影響の少ない地点を選ぶことの他に、「測定地点が地域的に偏らないこと」に注意しました。具体的には、第46話にあるように、北海道・東北地方から5箇所を選び、中国、四国、九州、南西諸島から6箇所を選んで南北のバランスを取っています。上記研究でもこのような配慮がなされているのでしょうか? このことを確認するため、研究対象となった8組の中都市と田舎観測所を次に列挙します(カッコ内は田舎観測所名):

  • 旭川(江丹別)、根室(襟裳岬)、山形(小国)、石巻(金華山)、長野(飯山)、浜松(御前崎)、彦根(木之本)、高知(室戸岬)」

まず気づくことは、上記8都市のうち4都市、すなわちサンプルの半数が北海道・東北から選ばれていることです。これに対し、南西日本から選ばれたのは高知だけで、南西日本と北東日本のサンプルのバランスが1対4と、北東日本に大きく偏っています。
また、個々のデータを見ますと、根室は都市とは言え、ほとんど温暖化が観測されていない例外的な都市です。原著者は「根室において都市化による影響とみなされる温度上昇が小さいのは、根室が細長い半島にあって、南北にある海からの強い風によって都市高温化の影響を受け難い関係であろうか。」と考察しています(※2)。ただし、根室の人口が2万7千人と少ないことも温暖化が少ない理由の一つと思われます。また、上記北海道・東北の4箇所の田舎観測所はこの100年間にほとんど、あるいは全く温暖化していません(※2)。8つのサンプルのうち半数のサンプルの温暖化量がゼロかそれに近かったために田舎観測所の気温上昇量の平均値が0.2℃という低い値になったと考えられます。田舎観測所でも室戸岬は明白な温暖化を示しており、これは地域差と考えられます。
また、「観測された温暖化の殆どが都市化による上昇量である」という上記結論も、日本全土の観測地点に適用できるわけではありません。このことは原著者自身が別の評論において、次のように述べていることからも明らかです(※3、K31.「室戸岬の温暖化量」):
「室戸岬における100年間当たりの気温上昇率は0.67℃である。この上昇率のうち、最近20年間の上昇率の寄与が大きく、1980年前後の平均気温に比べて2000年前後は約0.8℃も高くなっている。(中略)室戸岬気象観測所は標高185mの尾根にあり、周辺に人家がないので、地球温暖化の研究には理想的な場所である。」
すなわち室戸岬は全く都市化していないので、その温暖化の原因を「大部分は都市化による気温上昇量である」と説明することはできません。以上の考察から、上記研究はサンプルが日本全体を代表するように選ばれていないために地域的影響を強く受けており、その結論を日本全体や世界全体に一般化しないほうが良いと考えられます。
室戸岬の温暖化の原因が都市化でなければ、では何が原因でしょうか? これを探るため、都市化していないのに明白な温暖化を示す地点が他にもないか調べてみました。その結果、本州最南端の和歌山県潮岬観測所で100年間に1.1℃の割合で温暖化していました(※4)。更に鹿児島県の南西端の枕崎観測所でも、100年間に約1.5℃も温暖化していました(※5)。両観測所の周辺には人家はありますが市街地はありません。枕崎、室戸岬、潮岬の3地点が黒潮に洗われる岬の突端に位置していることから、黒潮の温暖化の影響が考えられます。そこで、日本近海の温暖化の状況について調べたところ、気象庁が次のように述べていました:
「日本近海における、2017年までのおよそ100年間にわたる海域平均海面水温(年平均)の上昇率は、+1.11℃/100年であり、日本の気温の上昇率(+1.19℃/100年)と同程度の値である。(中略)最も温暖化している海域は黄海と東シナ海であり、ついで先島諸島近海、沖縄東方、四国・東海沖、関東南方など(の黒潮流域)である。四国・東海沖の海水温の上昇率は100年間に1.23℃である。」 (※6)。
以上の考察から、黒潮の温暖化は明らかであり、この100年間の枕崎、室戸岬、潮岬の温暖化は黒潮の温暖化の影響であり、根室、襟裳岬、金華山との違いは北東日本と南西日本の地域差である可能性が高いと結論されます。この後、世界の温暖化を話題にしますが、世界でも温暖化には大きな地域差があり、暖流の影響下にある地域、例えば北極海の温暖化が激しい傾向が認められます。
次の第48話では「世界の平均気温と地球温暖化」について考えます。

(馬屋原 宏)

1)東京大学大気海洋研究所:http://ccrp.aori.u-tokyo.ac.jp/kikaku/index.html
2) asahi-net:http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke04.html
3) asahi-net:http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke31.html
4) 和歌山県:https://www.jma-net.go.jp/wakayama/kikou/pdf/mean-temp.pdf
5) 鹿児島県:https://www.pref.kagoshima.jp/ad08/kurashi-kankyo/kankyo/kankyohoken/shoho/documents/44515_20150317141141-1.pdf
6) 気象庁:https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/data/shindan/a_1/japan_warm/japan_warm.html