谷学発!常識と非常識 第55話 地球温暖化の原因(3):二酸化炭素原因説(続)―水蒸気の役割と近未来の温暖化予測

1.水蒸気は最強の温室ガスである

地球の平均気温は+14℃ですが、温暖化ガスを全部取り除くと-19℃になると計算されており、差し引き33℃は各種温暖化ガスの温室効果の寄与によるものです(※1)。うち水蒸気の寄与分が約50%以上、二酸化炭素の寄与分は約20%とされ、しかも水蒸気とは別に雲の温室効果の寄与分が約20%としているので、水蒸気関連の温室効果は合計70%以上となり、地球温暖化の主役は圧倒的に水蒸気です。水蒸気の温室効果がこれほど高い理由は大気中の水蒸気の量が他の温暖化ガスよりも圧倒的に多いからです。水蒸気の温暖化作用が最強であることを理由に、二酸化炭素温暖化説が誤りであると主張する人もいますがこれは誤解で、両者は両立し補強しあう関係にあります。

2.温暖化の水蒸気による「増幅」

水蒸気はそれ自体が温暖化ガスですが、水蒸気には温暖化を増幅する作用があります。例えば大気中の二酸化炭素濃度が2倍になると気温が約1.2℃上昇するとされます(※1)。気温が上昇すると大気中の水蒸気量も増加するので、その増加した水蒸気の温室効果によって更に気温が約1.2℃上昇するとされます(※1)。すなわち水蒸気は温暖化を約2倍に増幅します。しかも水蒸気による温暖化と温暖化増幅作用は温暖化が進行するほど大きくなります(下図参照)。

左の図(文献2より引用)は、気温(横軸)と飽和水蒸気量(1立方mの空気が含みうる水蒸気の最大量(縦軸、g)の関係を示します。例えば気温が0℃から5℃に上昇したとき、飽和水蒸気量の増加は2gですが、35℃から40℃に上昇したとき飽和水蒸気量の増加量は12gと、0℃の場合の6倍になります。すなわち水蒸気による温暖化も、温暖化増幅作用も共に温暖化により加速的に増加します。

3.水蒸気による温暖化はなぜ話題になりにくいのか?

温暖化対策といえば二酸化炭素の削減ばかりが話題になり、最も温暖化作用の強い水蒸気の削減は話題になりません。その理由は大気中の水蒸気量を人為的に調節することが不可能だからです。大気中の水蒸気量は気温と湿度で物理的に決まります。例えば湿った空気が上昇して気温が低下すると湿度が100%(=飽和水蒸気量)に達し、過剰な水蒸気は微細な水滴あるいは氷片である雲となり、雨や雪となって落下し、大気中から自然に除去されます。逆に、例えば温暖化防止の目的で大気中の水蒸気を回収することは除湿機の原理を使えば簡単にできますが、それにより低下した湿度は海洋等からの水分の蒸発によって自然に補われるため、大気中の水蒸気量の人為的調節は不可能です。温暖化二酸化炭素原因説では、水蒸気が最強の温暖化ガスであることを認めた上で、水蒸気による温暖化と温暖化の増幅を止める手段は、二酸化炭素の排出削減しかないと考えます。

4.二酸化炭素は本当に地球を温暖化するか?

大気中の二酸化炭素の上昇が地球を温暖化するという「現代の常識」には実験的証明がありません。ただし、地球の歴史には自然が地球に対する「二酸化炭素の負荷実験」を行ったとみなせるような事例が何度もありました。その1例が大規模な火山活動に伴う温室ガスの上昇です。過去5億年間に生物の大量絶滅が5回あったとされますが、そのうち恐竜やアンモナイトを絶滅させた約6600万年前の最後の大量絶滅の原因は巨大隕石の落下による地球の寒冷化であったことがほぼ確定しています。そして残り4回のうち少なくとも3回は大規模な火山活動の結果起きたことが分かってきました(※3)。中でも約2億5000万年前に三葉虫やウミユリを絶滅させた3回目の大量絶滅は最も確実な証拠があります。全ての大陸が1つの超大陸(パンゲア)を形成したあと、スーパーブルームと呼ばれる大規模な火山活動(地殻の割れ目噴火)が起こりました。その痕跡は直径1000~2000キロもの溶岩流(洪水玄武岩)として現在の西シベリアに残っています。大規模火山活動は、粉塵や硫酸エアロゾルを含む噴煙が全地球を覆い、太陽光線を遮断したための一過性の寒冷化で陸上生物の約7割を絶滅させ、ついで大量の火山ガス中の温室ガスが長期の温暖化をもたらし、海水温の急上昇、海水の酸欠と酸性化によって海洋生物の種の実に96%が絶滅したとされます(※4)。
自然による地球に対する「二酸化炭素負荷実験」の別の例が過去4回あったと言われる全球凍結(第5話参照)からの脱出です。地球が一旦全球凍結状態になると、太陽光線の殆どを反射してしまうため、太陽熱だけでは二度と凍結状態から脱出できません。しかし全球凍結状態でも火山活動は続いており、火山由来の温暖化ガスは表面が凍結した海洋に吸収されることなく大気中に蓄積します。温暖化ガスが現在の濃度の数百倍に達し、その温室効果で平均気温が約50℃に達したとき、赤道付近から氷床が溶け始め、全球凍結は急速に終わったと考えられています(※4)。
上記2種のケースでは二酸化炭素等の増加が地球温暖化をもたらしたことが明らかです。

5.人類による地球に対する「二酸化炭素負荷実験」

宮沢賢治が1932年に発表したSF童話『グスコーブドリの伝記』には、火山を人為的に噴火させて大気中の二酸化炭素濃度を上昇させ、その温室効果で地球を温暖化して国を冷害から救う話が登場します。この話から約90年も前に既に二酸化炭素による地球温暖化の概念があったこと、及び農業技師でもあった彼の関心が「冷害防止のための地球温暖化」にあったこと分かります。
現在起きている二酸化炭素の急上昇は、人類が図らずも実施中の、地球に対する「二酸化炭素負荷実験」であるといえます。負荷される二酸化炭素の原料となる化石燃料は、数億年前の石炭紀等に、高い気温と高い二酸化炭素濃度のもとで大繁茂したシダ植物や、海洋生物の死骸が地殻変動によって地下に閉じ込められ炭化したものです。この化石燃料を人類が大量に掘り出して燃焼させ、年間89億トン(炭素量)もの二酸化炭素にして数億年の時を超えて大気中に戻しつつあるために大気中の二酸化炭素が急上昇しています。増加した二酸化炭素は上記の2種の自然による「二酸化炭素負荷実験」と同様に、地球温暖化をもたらすと考えられます。問題はその温暖化の程度です。

6.IPCCによる近未来の温暖化予測

左の図(文献5より引用)は、2013年に発表されたIPCC「第5次報告書」による、2100年までの温暖化予想です。この予想は条件を変えた4つのシミュレーションから成り、図はそのうち2つの結果を示しています。上の赤線は対策を全く実施しなかった場合(RCP8.5モデル)で、+2.6~+4.8℃の温暖化を予測しています。
下の青線は最大限の対策を講じた場合(RCP2.6モデル)で、+0.3~+1.7℃の温暖化を予測しており、他の2つの予測幅はグラフの右にあるように、対策が中間的な場合を仮定しています。
これら4種の予測の数値の最少と最大は、+0.3~+4.8℃と、実に16倍もの幅があります。
温暖化予測にこれほど大きな開きができる理由はシミュレーションに方法論的な限界があるからです。数値シミュレーションでは全ての関係因子を数式化する必要がありますが、気象は複雑系であり、因果関係が十分に分かっていない因子があります。例えば雲は文献1では二酸化炭素と同等の温暖化因子としていますが、雲は太陽光の反射率(アルベド)を高めるため、雲を寒冷化因子と考える研究者も多く、気温に対する雲の影響は確定していません(※6)。また、将来の二酸化炭素の排出量も各国の今後の努力次第という側面があり、正確な予測は困難です(7項参照)。シミュレーションでは不確定因子は条件に幅を持たせるか、条件を変えて複数のシミュレーションを行います。条件の設定を誤ると、実際の現象が予測から大きく外れることもあります(※7)。
IPCCによる温暖化予測は幅が16倍もあるので、結果は予測範囲のどこかに落ち着くでしょうが、実際の温暖化量がわかりません。悲観的な人たちは、温暖化の進行によりグリーンランドや南極の氷床が溶解して海面が数十メートル上昇し、海岸平野の殆どが水没し、6億人以上の住居、職場、農地が失われ、また、今後ますます異常気象が増え、砂漠の拡大、山岳地帯の降雪量の減少や氷河の消失による大河川の流量減少、灌漑用水の枯渇等から、世界的な食料危機が到来し、戦乱の時代となるといった最悪の結果を予想します。

7.二酸化炭素の削減は可能か?

以上から、温暖化の程度を最小にするため、大気中の二酸化炭素濃度はこれ以上上昇させないほうが無難と思われます。二酸化炭素の濃度の上昇を止めたり、濃度を減少させることは極めて困難と思われますが、以下のような希望も生まれつつあり、不可能ではないと考えられます:

  • ①太陽光発電のコストが化石燃料発電以下のレベルにまで低下しつつある。
  • ②再生可能エネルギーによる発電量が予想より速いペースで増加している(2018年に九州電力は太陽光発電の過剰に困り、発電業者に依頼して太陽光発電を時々止めた)。
  • ③各国の政策でEVの普及が予想以上に早く進む可能性がある。
  • ④原子力発電や安価な太陽光発電による水の電気分解で得られた水素をエネルギー源とする水素社会の到来が予想以上に早まる可能性がある。
  • ⑤「2050年までに二酸化炭素の排出量をゼロにする」といった大胆な数値目標を策定する先進国や自治体が増えている。
  • ⑥二酸化炭素を地中や海底に閉じ込める技術(CCS)が既に一部で実用化されている(※8)。
  • ⑦太陽光発電と触媒を使い、二酸化炭素を一酸化炭素に変換し、これを原料にガソリンやプラスチックの原料を製造する「炭素リサイクル技術」が開発されつつある。
  • ⑧様々な二酸化炭素固定法が開発されつつあり、将来、画期的かつ安価な二酸化炭素固定法や炭素リサイクル法が開発される可能性がある。

などです。第56話ではそれでもやがてくるはずの日本の氷河時代について考えます。

(馬屋原 宏)

1)横畠徳太:http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/11/11-2/qa_11-2-j.html

2)愛知県:https://www.manabi.pref.aichi.jp/contents/01120349/0/situdo/situdo/howasui.htm

3)海保 邦夫;http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/274753.html

4)NHK: https://www.youtube.com/watch?v=nlGQujNouKY

5)IPCC第5次報告書:https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_wg1_overview_presentation.pdf

6)気象庁:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/ipcc_ar5_wg1_faq7.1_jpn.pdf

7)金子勇:「地球温暖化論と科学的予測の問題」、https://matsuyama-u-r.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=1536&item_no=1&page_id=13&block_id=21
8)W.ブロッカー・R.クンジグ著、内田昌男監訳:『CO2と温暖化の正体』河出書房新社(2009)