谷学発!常識と非常識 第85話 生命の起源と進化⑮
―ヒトの進化の謎(3)

11.人類はなぜ戦争をするのか?

戦争には、他国の領土を奪うための侵略戦争と、国内の支配権を争う内戦があります。いずれの場合も、その手段は可能な限り多くの相手を殺戮し、その生活基盤を破壊することです。このような野蛮な行為を、人類がいつまでも止めない理由を、人類の進化の面から考察します。

人類が戦争する理由を考察する場合、以下の進化的・歴史的事実を考慮する必要があります:

(1) ヒト以外の動物は、種内闘争では通常、相手を殺すまでは闘わない。 ヒト以外の動物が同種同士で闘う場合の目的は、主にオスがメスや食料を巡って優先順位を確定するための儀式のようなものであり、負けた方が逃げだすか、尻尾を巻くなど、種に特有な敗北のサインを示せば闘争はそこで終わります。これは動物がヒトよりも道徳的なためではなく、そうすることがかれらの本能だからです。ヒト以外の動物の場合、相手も自分と同等の犬歯や角などの身に備わった武器を持っているため、相手が死ぬまで闘えば、自分も傷つき、死ぬリスクが高まります。弱者が敗北のサインを示した時点で勝者が闘争を止めることが種の存続に有利に作用し、最後まで闘う個体は淘汰され、相手を殺すまでは闘わない本能が進化したと考えられます。

(2) ヒトとヒト以外の動物では同種殺しの対象が異なる。 哺乳類の約半数の種が同種殺しをすることが知られており、ヒトの同種殺人の率はトップ30位にも入りません(※1)。動物の同種殺しは新しいオスが前のオスの仔を殺す幼児殺しが殆どで、これは母親の子育てを終わらせ、自分の仔を早く産ませるための本能的行動であり、ドーキンスの利己的遺伝子仮説で説明できます。一方、ヒトの殺人は成人同士で行われる点で、他の動物の同種殺しとは全く異質です(※2)

(3) チンパンジーも成体の同種を殺す: 京都大学の研究チームはチンパンジーが集団で他の集団を襲い、オスを殺して食べる行動を動画で公開しています(※2)。この襲撃は偶発的な事件ではなく、チンパンジーが縦列を組んで他の群れのテリトリーに侵入して開始されるので、計画的行動です。研究者らは、この行動がオスによる資源と配偶相手を獲得するための適応的行動であると説明しています。成体の同種殺しがヒトとチンパンジーだけに認められることは、この行動が、ある程度の知能の発達と関係している可能性を示唆します。

(4) 人類の亜種は全て絶滅している: 北京原人やジャワ原人を含む直立原人(ホモ・エレクトス)を含め、約30種類いたとされる原人、旧人、ヒトの亜種類は、約4万年前のネアンデルタール人の絶滅を最後に全て絶滅し、生き残ったのは現生人類(ホモ・サピエンス)だけです。下記の(5)~(7)の内容からの類推ですが、これらの絶滅に現生人類が関与している可能性があります。

(5) パプアニューギニアの食人風習は20世紀中頃まで続いていた: パプアニューギニアでは部族間闘争でヒト狩りをし、獲物(ヒト)を食べる風習が20世紀中頃まで続いており、太平洋戦争中に密林に深入りしすぎた日本兵や米兵が原住民に襲撃され、食われたようです(※3)。熱帯雨林での食人の風習は、アフリカや中南米でも認められており、熱帯雨林がタンパク質資源に乏しい環境であることと関係していると説明されています(※4)

(6) 人類の歴史は戦争の歴史でもある: 人類は古代には古代帝国間の戦争、中世は民族大移動戦争や宗教戦争、近・現代は植民地獲得戦争や革命戦争と、人類の歴史は戦争の歴史でした。戦争の世紀と言われた20世紀は、2度の世界大戦、ロシアと中国の革命戦争、及び革命後の政治的混乱による餓死者を合わせると、死者は計約1億5000万人に達します(※5)。21世紀になっても戦争は一向に減らず、現在もシリア、アフガニスタン、イエメン、ソマリア、エチオピア、南スーダンなどで続いており、ウクライナでも新しい戦争が始まりました。

(7) 人類は国内でも少数民族を殺戮する: 国内でも肌の色、言語、宗教、文化が異なる少数民族を殺戮し、あるいは無力化して支配下に置く事例は、アメリカインディアン、豪大陸のアボーリジニ、日本のアイヌ、ドイツのユダヤ人など、歴史的に頻繁に見られ、現在も中東のクルド人、中国のチベット人や新疆ウイグル人、タイのロヒンギャ人などが虐殺されています。

では、他の動物が身に着けている、同種殺しを避ける本能が、人類ではなぜ進化しなかったのでしょうか。私見ですが、下記の仮説によれば、この謎と、上記の7つの事実が全て説明可能です:

①人類が武器を発明したとき以来、病原体を除き、ヒトの天敵は事実上いなくなった。

②その結果、人口増加の歯止めがなくなり、食料資源の限界まで人口が増加した。

③常に食料不足に悩まされた人類は、隣接する他の人類集団を襲撃し、男性は殺すか食料にし、そのテリトリーの食料資源と女性を奪うようになった。

④襲われる方の立場からすれば、これは天敵がいなくなったはずの人類に、“敵対する同種”という新たな天敵が出現したことを意味する。この天敵は自分たちと同等か、それ以上の知能と、より優れた武器を持つかもしれない点で、猛獣よりも恐るべき天敵であった。

⑤ヒト以外の動物の種内闘争では、相手を殺さないことが種の存続に有利に作用したが、ヒトの場合は違った。ヒトという天敵は致命的な武器を持ち、集団で襲ってくるため、生き残るためには団結して相手を殺すしか方法がなかった。更に、敗者の子孫が生き残れば、後日その子孫や一族に逆襲され、かつての勝者が滅亡するリスクがあった(例:源平合戦)。

⑥このような状況では、ヒトに同族殺人を避ける本能が形成される可能性はない。逆に、敗者の子孫や一族を、徹底的に殺戮する冷徹な種族が生き残る可能性が高かった。

⑦現生人類ホモ・サピエンスは、“敵対する同種”という最悪の天敵との、数百万年間続いた生存闘争(=同種殺人レース)の、唯一の生き残り集団であると考えられる。

以上から、人類が今なお戦争をやめない理由は、武器の発明がヒトにとっての唯一の天敵が“敵対する同種”という事態を招き、この天敵との生存闘争が人類の数百万年間の進化の過程を通して続き、今なお続いているため、と説明できます。

12.今後の人類の進化 ―― 絶滅かサイボーグ化

人類は同族殺人の目的で核兵器という絶滅兵器を手にしたため、自ら絶滅する可能性があります。また、人類は環境破壊問題や地球温暖化問題にもうまく対処しないと将来人口が大幅に減少するでしょう。人類がこれらの危機にうまく対処して生き残ったとしても、今後、人類が他の生物のように、自然選択によって進化することはありません。その理由は、自然選択による進化には数十~数百万年単位の時間を必要とするのに対し、圧倒的に速い「人為的進化」が既に進行中だからです。

人為的進化の要因は医学の進歩です。例えば、抗生物質による感染症の治療、心臓や脳の手術、腎透析、がん治療等の、昔は治療できなかった疾病の治療、ワクチン接種による疾病予防等によって、昔なら子孫を残さずに死んだ筈の個体まで子孫を残すようになり、更に産児制限、人工妊娠中絶、不妊治療、遺伝子治療などが、意図しないヒト遺伝子の人為的選択をもたらします。その結果、本来なら自然淘汰されるべき欠陥遺伝子まで次世代に受け継がれる可能性が高まっています。

人類の進化には、ヒトの失われた能力の補完あるいは強化のための、人体への機器の装着(人類のサイボーグ化)もあります。メガネ、義歯、義手・義足など、簡単な器具の装着は古くからありましたが、眼内レンズ、人工関節、心臓ペースメーカー、冠動脈バイパス、代替心臓弁膜等の埋め込みが既に普及し、さらに最近のIT技術の発達が人工心臓、人工内耳、人工会話装置、人工運動補助装置など、人類のサイボーグ化が進んでいます(※6)。(第86話に続く)

(馬屋原 宏)

引用文献

  • 1)カラパイア:https://karapaia.com/archives/52246844.html
  • 京都大学:https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2014-09-29
  • 3)Gigazine: https://www.bild.de/news/bild-english/japanese-taste-best-whites-are-too-salty-6816750.bild.html
  • 4)大塚 滋:「食の文化史」中公新書(1975)
  • 5)社会実情データ図録:http://honkawa2.sakura.ne.jp/5228b.html
  • 6)NHK-BS:「サイボーグ」、ヒューママニエンス、2022年1月27日放送