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高橋道人先生を悼む (佐藤哲男)

高橋道人先生を悼む

ここ2−3年の間に多くの友人が他界された。2021年には私の長年の親友であった黒岩幸雄先生が亡くなられた。今年になり、7月2日朝に高橋道人先生がご逝去されたとの報に接した。先生は安全性評価研究会(谷学)では特別会員として研究会の発展に大きな貢献をされた。記憶に残るのは、奈川や八ヶ岳自然文化園での夏のフォーラムには必ず出席し、懇親会後には5−6人で夜遅くまで美酒を交わしながら議論百出したことは多くの会員の記憶に残っている。お仕事については、それまでの豊富なご経験を活かして、現役退職後は病理組織のピアレビューアーとして、国内のみならず海外の製薬会社からもその技術は高く評価されていた。

先生の毒性病理学への原点は、名古屋市立大学医学部病理学講座の伊東信行教授のもとで受けたご経験に基づいていると考えられる。伊東教授は日本毒性病理学会を始めとし、日本癌学会、日本病理学会、日本トキシコロジー学会(日本毒科学会に続き)、日本食品化学学会、米国トキシコロジー学会(Society of Toxicology, SOT)などで多くの貢献をされた著名な毒性病理学者である。また、日本毒性病理学会理事長として毒性病理学分野で偉大な指導者として多くの研究者を育成した。その中の一人が高橋道人先生である。先生は名古屋市立大学をご卒業後、伊東教授の第一病理学講座のスタッフとしてご勤務されたのちに、1987年に当時の国立衛生試験所に毒性部室長として就職された。1991年には病理部長となり、1995年には同試験所安全性生物試験研究センターの病理部長となった。なお、1997年には、国立衛生試験所は改組されて「国立医薬品食品衛生研究所」と名称を変えた。

高橋先生との付き合いは30年を超えた。先生がこれまで果たされた多くの研究成果は国際的にも高く評価されており、後年は日本毒性病理学会の名誉会員として後進の指導に当たられた。言うまでもなく医薬品の安全性の解析には病理学的知見は不可欠であり、中でも新薬の治験においては病理学的知見が重要な鍵となる。この点で、長年にわたるご経験から先生の的確な判断は高く評価された。今頃は天国において伊東信行先生と再会し美酒を交わしているに違いない。心から先生のご冥福をお祈りする。合掌

2022年7月10日