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【統計一口メモ 第34話】累積χ2検定って何でしょう?

名古屋市立大学大学院医学研究科 非常勤講師 薬学博士 松本一彦

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薬理や毒性試験では(-)から(+++)のように効果に順序があるデータを多く見かけます。このような順序カテゴリカルデータの検定にも、一般的にχ2検定が用いられます。χ2検定では順序は無視され、-と+++を入れ替えても同じ結果になります。
累積χ2検定はそのような順序を考慮したカテゴリカルデータ解析法です。本法はJMPをはじめ市販ソフトには登載されていないため、ここでは、Pharmaco Basicでの解法をとりあげました。

§1.累積χ2検定のエクセルでの手順

手順1.累積した2x2分割表から累積度数を求める

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手順2.分割表ごとにχ2値を求める

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手順3.χ2値の合計を求める
χ02値=2.540+5.980+3.657=12.177

手順4.分割表ごとにオッズ比を求める
分割表どうしの関連の強さはオッズ比で表される。

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合計W = w12+w13+w23 = 0.7790

手順5.係数dを求める
Wからχ2値と自由度を縮小するための係数d(自由度縮小係数)は次の式から求める。χ02値は3つのWが同じ数値を重複して使用しているため、独立性が確保できないための補正しなければならない。
a=薬剤数=2、  b=カテゴリー数=4

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手順6.補正χ2と縮小自由度を求める
補正χ2 = 12.177/1.519 = 8.016
縮小自由度 = 3/1.519 = 1.975

手順7.p値を求める(ユーザー定義関数使用)
p_CHIDIST(8.016, 1.975)=0.0018

小数点自由度を使うエクセル解析ではp値を算出するためには、ユーザー定義関数を使って自由度を求める(芳賀敏郎:医薬品開発のための統計解析310)参照、マクロが提供されているのでサイエンティスト社のHPからダウンロードして使用)。

§2.Pharamco Basicでの解析

手順1.基礎統計解析から「計数値」を選択する。

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手順2.手法に〇累積χ2を選択し、「群数」を2,「カテゴリー数」を4とし、データ入力欄には、群に「無投与」「投与」、カテゴリーに「-」、「+」、「++」、「+++」を直接記入し、それぞれ観測値を記入する。〇累積χ2を選択すると、結果は下図のようにp値が示される。

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§3.累積χ2検定で注意しなければならないこと
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順序のあるカテゴリカル検定を行うときは、-から+++までが上昇傾向か下降傾向か、両群の傾きが同じであることに注意しなければならない。順序が大きく入れ替わっているようなデータは順序統計量としては扱えない。それは生物学的な反応から正しく評価されているとは考え難いからとも言える。

§4.累積χ2検定の誕生秘話

累積χ2検定は1982年広津千尋1)2)によって発表された順序カテゴリカルデータ解析手法です。論文内容は数理統計学者の理論と数式からなる難解な手法で、実務者が応用するにはほど遠いものでした。それが、たまたま病理検査の順序カテゴリカルデータ解析法に取り組んでいた問題と合致しており、実務者向けの方法を考案しました3)

当時取り組んでいたのは、「田口の累積法」4)で、従来のχ2検定より第2種の過誤が小さいということがうたわれていました。しかし、実効自由度を求める方法が煩雑なため、簡便法で自由度を算出していました。その結果、自由度は大きくなり過ぎて、誤差分散が小さくなり、過剰な有意差を出すようになっていました。そこに、広津の累積χ2検定が現われたわけです。

広津の累積χ2検定は、行列式を駆使して取組む難解な手法でしたが、エクセルもない時代で、電卓でも解析できる手法を模索してできあがったのが、上記§1の手法です。

本手法を1982年の医薬安全性研究会定例会で広津先生臨席のもとに発表後、会報No.6に寄稿しました3)

「広津の累積χ2法」は、外国誌に投稿されていたにもかかわらず、海外での認知度は低く、その簡便法は日本でのみ使用されるに至っています。したがって、累積χ2検定は海外の市販ソフト(JMPやSPSなど)には登載されていないため、Pharmaco Basicに載せることにしました。本法の載っている論文や教科書をリファレンスに挙げておきます4-10)

以上

  • 1)Hirotsu C: Use of cumulative defficient scores for testing ordered alternatives in descrete models. Biometrika 60, 567-577 (1982)
  • 2)Takeuchi K and Hirotsu C : The cumulative chisquares method against ordered alternatives in two-way contingency tables. Rep. Statist. Appl. Res. Union. Jpn Sci Eng 29. 1-13 (1982)
  • 3)松本一彦:医薬安全性研究会 会報No.6 1982
  • 4)田口玄一:χ2法の問題点と累積法の提案(1);最新医学29. 806-813、1974
  • 5)吉村功編著:毒性・薬効データの統計解析、サイエンティスト社 1987
  • 6)吉村功、大橋靖雄編著:毒性試験講座14.毒性試験データの統計解析、地人書館 1992。
  • 7)松本一彦:薬理試験における統計解析のQ&A—累積カイ二乗検定の応用―、   日薬理誌 110. 341-346, 1997
  • 8)佐久間 明著:医学統計Q&A 金原出版 1994
  • 9)丹後俊郎:医学への統計学 朝倉書店 2013
  • 10)芳賀敏郎:医薬品開発のための統計解析3 サイエンティスト社 2016